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放課後、俺はいつものように階段を上っていた。 いちいち説明しなくても分かると思うが、文芸部の部室へ向かうためである。 しかしそこで文芸部的な活動をする分けではない。 SOS団なる謎の団体の活動をするのである。 廊下の窓から外を眺めると部活動に励む生徒の姿や、 その他に学校に残って友達と遊んでいる者、 さっさと帰宅して個人的な趣味や塾に通う者、 そして男女のカップルのイチャつく姿が見えた。 「はぁ、俺はいったい何をやってるんだか・・・」 俺は普通の高校生の姿を眺めながら溜息をついた。 俺は別に好きでSOS団の活動をしているわけではない。 活動をサボったら我がSOS団の団長、ハルヒに怒られるのであり、 ハルヒが怒れば神人という謎の化け物が暴れだすからであり、 そのハルヒの機嫌を損ねないために俺はSOS団に参加してハルヒを喜ばせているのである。 しかもそのSOS団の活動と言えば、平日は古泉とボードゲームをし、 休みの日には街を散策して未確認生物を探し回るという、まさに時間の無駄遣いであった しかし全てが無駄と言うわけではない。 その理由はSOS団の女神であり、全校の男子生徒のマドンナである 朝比奈さんのいれたお茶を飲めることである。 そのお茶のおかげで俺の憂鬱の8割は解消されてるね。 いつものようにドアをノックすると、いつものように朝比奈さんの 「はぁ~い」 という返事が聞こえ、俺はドアを開けて部室の中に入る。 その朝比奈さんは、いつものメイド服ではなく、黒い色のくノ一(女忍者)の格好をしていた。 「あ、キョン君、いっらしゃ~い。いまお茶を入れますね」 その女忍者の格好は、スカートが膝下より長いメイド服とは異なって、 太ももがほとんど露出しており、あと少しでパンツが見えそうなくらい短かった。 実際、少し前かがみになっただけでパンツが丸見えだった。 俺はお茶をいれる朝比奈さんの姿(特にお尻)を眺めながら朝比奈さんに尋ねた。 「朝比奈さん、その衣装、またハルヒが用意したんですか?」 お盆にお茶を載せてこちらに運びながら朝比奈さんは言った。 「いえ、これは自分で用意したんです。いつも長いスカートだったでしょ? だからお店の人に短いスカートの衣装をください、って言ったらこの黒いくノ一(女忍者)の衣装をくれたの」 「へ~、朝比奈さんが自ら衣装を買いに行くなんて驚きですね。 ところで、なんでスカートの短い衣装が良かったんですか?」 朝比奈さんは顔を真っ赤にしながらこう言った。 「だってキョン君・・・短い方が嬉しいでしょ・・?」 「そりゃ、まあ、そうですけど・・・」 「あの!触りたかったら触ってください。そのためにこの衣装を着てるんです!」 俺は一瞬何が起こったのか分からなくなり、数秒間考え、結論を出した。 「では、お言葉に甘えて」 俺は朝比奈さんの後ろに立った。 そしてお尻を触った。朝比奈さんの息が荒くなっていく。 それに飽きてきたので前を触ろうとする。 しかし朝比奈さんは両手を前で組んでいる。 「すみません、両手をどかしてもらえますか?」 「あっ、はいっ、すみません・・・」 その時だった。 バタン!!!!!! 扉が急に開いた。 「こらー!なにやってるのよ!SOS団は社内恋愛禁止なんだから!」 ハルヒだった。 いきなり登場して俺と朝比奈さんを怒鳴ったかと思ったら スタスタと自分の特等席に着席してパソコンの電源をつけた。 俺はハルヒなど無視して続きをしようと思ったが、 朝比奈さんは、「今日はもうダメ・・」と言って俺から離れてしまった。 続いて古泉と長門が来て、朝比奈さんは3人分のお茶を入れることになった。 古泉の席の後ろで、朝比奈さんはお茶を入れている。 そして朝比奈さんのパンツを見ることが出来る。 さすがの古泉も後ろで何が起こっているのかは分からないのだろう。 お前の後ろではパラダイスが広がってるんだぞ、と心の中で思っている時だった。 俺は横からの視線を感じ、横を振り向く。 その視線の主はハルヒだった。俺のことをギッと睨んでいた。 なんなんだよ一体・・・ 「キョン、今日あんた居残りだから」 「はぁ、なんでだよ?」 「いいから残りなさい!」 やれやれ、理由さえ聞かせてもらえませんか。 俺は仕方なく居残りすることにした。 長門と古泉と朝比奈さんが帰り、文芸部の部室にいるのは俺とハルヒだけになった。 「なんで居残りさせたんだ?」 「あんた、ひょっとしてミクルちゃんのこと好きなの?」 「なんなんだよいきなり。好きだったとしたらなんなんだ?」 「いいから答えてよ。好きなの?嫌いなの?」 「まぁ、どっちかと言えば好きだね。優しくて思いやりがあって、お前とは大違いだ」 しまった。口が滑って変なこと言っちまった。 きっとハルヒはこの言葉でご立腹だろうと思い、俺はハルヒを見た。 しかしハルヒは怒ってなどいなかった。 俺の勘違いかもしれんが、少し泣いているような気がした。 「そう・・・あんた、あーゆーのが好きなのね」 そしてハルヒは走って帰ってしまった。 次の日、教室でハルヒは授業が終わるまで顔を伏せていた。 そして放課後、いつもどおり、俺は放課後に文芸部室へ行った。 そしてドアをノックした。 「は~い」 という返事。 ドアを開けて室内を見た俺は、ドアを閉めた。 何が起こったのか理解できなかった。 「なんで閉めるんですか~」 そして内側から扉は開けられて、俺は混乱してるまま室内に入った。 部室に居たのは朝比奈さんではなく、ハルヒだった。 しかも昨日、朝比奈さんが着ていたくノ一の格好だった。 しかし黒色ではなく、白色だった。 これでは忍者的活動が出来ないぞ。もしかして雪国での忍者か? 「ハルヒ、頭でもぶったのか?」 それとも変なモンでも食ったのだろうか。 まさかまた不思議な力によって世界が改変されたとか、そんな面倒なことが起こったのだろうか。 「違いますよ~。頭なんてぶってませぇん。 昨日キョン君はこういうのが好きだって言ってましたよね? だからやってみたんです~。どうですか?似合ってますか?」 呆然と立っているとハルヒは 「あ、座って待っててくださいねぇ、今お茶入れますから」 と言った。俺は言われたとおり座って待ってることにした。 お茶を入れるために前かがみになったハルヒは、昨日の朝比奈さん同様、パンツが見えた。 しかも「好き」という文字がプリントしてあった。 俺は呆然とその文字を眺めていると、ハルヒが急に振り返り 「あのぉ、パンツ見ましたかぁ?」と言った。 これはひょっとして、あのコンピュータ研部長のときと同様、なにか恐喝でもされるのか? 等と考え、返答に困っていると、ハルヒが 「あのぉ、触りたかったら触ってもいいですよぁ」と言った。 やれやれ、俺の我慢の限界も低いもんだな。 「では、お言葉に甘えて・・・」 ハルヒに近づき、尻の穴を指で触ってとき、ドアが開いた。 朝比奈さんだった。 「あ、涼宮さん、キョン君、まさか、、こういう関係だったんですか? それ、私がこの前買った衣装と同じのですね」 「ええ、そうよ、ミクルちゃんがあまりにも可愛いから買っちゃった。 結構動きやすいし便利よねこれ」 「あの、、それよりも何をやってたんですか?」 「お茶入れてちょーだい」 「私の質問に答えてくだ、、」 「お茶入れてちょーだい」 ハルヒはいつも通りの乱暴な性格に戻った。 なんなんだ一体・・・ やがて古泉と長門もやってきた。 「キョン!なにか面白い話題とかないの! なんかこう、とてつもなく面白い話よ!」 ねぇよ。自分で調べろよ。 というとハルヒはネット巡回を始めた。 俺はいつもどおり古泉とゲームをしていた。そこに長門が俺のそばに来て本を渡した。 「・・家に帰ったらすぐ読んで・・・」 古泉は不思議そうな目で俺を見ていたが、それを無視して俺はゲームに戻った。 そして長門が部室から出て行き、その日のSOS団の活動は終わった。 家に帰った俺は長門に言われたとおり、本を読むことにした。 正確に言えばページをめくって栞を探していた。 それはちょうど真ん中らへんのページに挟まっていた。 「晩ご飯を食べる前にすぐに私の家に来て」 俺はダッシュで長門の家に向かった。 ハルヒの頭がおかしくなった事と何か関係があるのだろうか。 長門の部屋のインターフォンを鳴らし、ドアが開いた。 そこでまた俺は頭がおかしくなりそうになった。 「あ、キョン君、おかえりなさぁ~い」 長門が忍者の格好をしていた。しかもピンク。 俺は溜息をつきながら長門の部屋に入った。 「ご飯にしますか?お風呂に入りますか?それとも、、、うふっ」 なんか長門の頭もおかしくなってしまったようだが 俺はそんなことは無視してご飯を選択した。まずは飯だ。 そこで気がついた。 なんと長門の衣装はパンツがギリギリ見えるとかそんなレベルではなく、パンツ丸見えだった。 その衣装はヘソの辺りまでしかなかった。 「あのぉ、触りますかぁ?」 またこれだ。 「いや、断る。今は触るって言う気分じゃないんだ。 匂いを嗅ぎたいんだ」 そして俺は仰向けになって寝た。 そして俺の顔の上に長門がまたがった。 俺が匂いを嗅いでいると、玄関の扉が急に開いた。 「長門さん、、なにやってるの・・・?」 朝倉だった。 「ちょ、朝倉、違うんだって!これは、その・・・」 しかし俺の言葉を無視して、朝倉は走って自分の部屋に帰ってしまった。 とりあえず飯だけ食って俺も帰ろう。 次の日の朝、下駄箱の中に手紙が入っていた。 「今日の5時ごろに教室に来てください」 なんなんだろうね、まったく。 そして放課後、いつものようにドアをノックする。 「入っていいわよ」 そこにいたのは忍者姿の朝比奈さんだった。 「キョン、お茶入れてちょーだい」 「あの、朝比奈さん、どうしたんですか?」 「さっさとお茶をいれなさい!」 どうやら今度は朝比奈さんがハルヒの性格になってしまったようだった。 「あ、やっぱお茶はいいわ。コップだけ持ってきて」 そう言われたので俺は朝比奈さんのもとへコップを持っていった。 コップを床に置くと、朝比奈さんはパンツを下ろし、オシッコをした。 「さっさと飲みなさい!」 俺は一気に飲み干した。 「カレーがあるけど食べる?」 いえ、それは遠慮しときます。 そして古泉が部室にやってくると同時に朝比奈さんはいつもどおりの正確に戻った。 夕方の5時である。 教室で待っていたのは朝倉だった。 しかも忍者の姿。そして衣装は肩らへんまでしかなかった。 パンツも胸も丸出しである。 もはや忍者かどうかも分からない。 「お前か・・・」 「そ。意外でしょ」 俺は朝倉に聞いた。 「なあ朝倉。教えてくれ。長門やハルヒや朝倉さんがおかしくなってしまったんだ。 いや、お前もおかしくなった。何故だ!」 「みんなキョン君のことが好きなのよ。だからああいう格好をしているの。 そして私もあなたのことが好き」 「で、お前はなんの用なんだ?」 「人間はさあ、よく、やらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうがいい、って言うよね。 これ、どう思う?」 と朝倉は顔を赤らめながら言った。 「言葉どおりの意味なんだろう」 「じゃあ、やろっ!」 次の瞬間、さっきまで教室だったこの空間は ベッドルームになっていた。そして朝倉は俺に迫ってきた。 俺の服は朝倉の不思議な力によって消えていき、ついには全裸になった。 ベッドに寝た朝倉にいろいろやろうとしたその時、横の壁が爆発した。 そこに立っていたのは長門だった。 「情報連結解除、開始」 「そんな・・・」 朝倉は悲しそうな声で言った。 「そんな・・・」 俺も悲しそうな声で言った。 朝倉の体は消えていってしまった。 そして部屋はベッドルームではなく、いつもの教室に戻っていた。 どうやら教室を再構築したようだった。 しかし俺の服は再構築されなかった。つまり全裸である。 そして俺は全裸で帰った。 次の日、俺はいつもどおり文芸部の部室へ行き、ドアをノックした。 「どうぞ」 という古泉の返事が聞こえ、俺はホッとした。 そしてドアを開けた瞬間、俺はドアを閉めた。 なんと古泉が全裸で立っていたのである。 俺はドアノブを掴んで、ドアが開かないようにした。 逆に古泉は内側からドアを引っ張っている。 「開けてくださいよ、ねぇ、開けてくださいよ」 ドアの引っ張り合いをしていると、後ろから谷口と国木田の声がした。 「おい、谷口!国木田!助けてくれ!俺の全財産をやるから助けてくれ!」 しかし俺は谷口と国木田の姿を見て諦めた。 なんと二人とも全裸だったのである。 俺は谷口と国木田に抑えられ、ついに部室の扉は開いてしまった。 そして中に運ばれていった。 起きなさい、起きなさいってば! ハルヒの声がする。 助けてくれハルヒ・・・ 起きなさい! 「ああ、、夢か」 どこまでが夢だったのか俺は考えてみる。 そうだ、ハルヒが忍者の衣装をしていて、そしてお茶を飲みながら 他の団員が来るのを待ってる間に眠ったんだ・・・ 外は真っ暗だった。 ハルヒは他の団員が帰った後も俺が起きるのを待ってたらしい。 「あんたが気持ちよさそうに寝てたから、起こそうと思っても起こせなかったのよ」 今は10月の下旬で、昼間は暖かいが夜になれば寒い。 時刻はもう6時半である。 既に外は真っ暗で、街灯がついている。 俺は俺が起きるのを待っていたハルヒと一緒に帰ることにした。 ハルヒは忍者の衣装のままだった。 「なぁハルヒ、寒くないのか?」 「寒いわよ。でも着替えるの面倒だったからこのままでいいわ」 「でも上着を羽織るくらいなら面倒じゃないだろ?」 「このままでいいの!」 「そうか・・・」 夜道を歩く男子高生徒と白い忍者。 明らかに不審者である。 無言のまま帰り道を歩いているとハルヒが口を開いた。 「ねぇ、キョン。あんた告白ってした事ある?」 「ないね。お前はあるのか?」 「されたことなら何度でもあるけど、自分からしたことは無いわ」 俺たち5人組は街中を散策した。 特に目的も無かったので本屋に行って立ち読みをしたり 服屋をいろいろと見て回ったりした。 今日の女子3人は忍者の格好をしていた。 ハルヒは白、朝比奈さんは黒、長門はピンクである。 まぁ、服装の趣味はひとそれぞれだし、忍者の格好をしてはいけないという法律は無い。 それはいい。忍者だろうが気にしない。 女子3人は街行く人の視線を浴びながら一日を過ごした。 ハルヒと長門は特に気にすることなく歩いていた。 朝比奈さんはつねに人目を気にしながら歩いており 解散時間になる頃には精神的疲労で倒れそうなほど疲れている感じだった。 なんだかんだで解散時間である。 「とろこで古泉、なんでお前は全裸なんだ?」 古泉は全裸だった。 古泉は全裸のまま叫びだした。 「これは人類のありのままの姿ですよ! 僕を否定するということは人類を否定することになります! ここ数千年の間で人類は服を着ました! しかし!これは進化ではありません!退化なのです! 昔は人類は猿のように体中に毛が生えてたました! しかしある時期を境に人類は毛が抜け、裸になりました! まさに進化ですよ!しかし5000年ほど前から服を着だしました! そこからが退化の始まりです!我々人類は進化しているようで退化してるのです! 今の人間に出来ることはなんでしょうか!地球を汚すことしか出来ません! 我々は母なる地球のために生きています!いや、生かされてます! しかし人類は汚してばかりだ!これは母なる地球に対しての冒涜であり、地球上の生物として退化である!」 古泉は警察に逮捕された。 ハルヒは言った。 「逃げるわよ!」 これはさすがに逃げるのが一番いい選択だな。 俺たちも古泉の仲間だと思われて逮捕されるかもしれん。 古泉のことである。拷問をされても仲間を売るようなことはしないだろう。 安心しろ古泉、出所した後は鍋パーティーでもしようぜ。 俺とハルヒと長門は全力で走った。 しかし朝比奈さんは足をガクガクと震わせ、走れそうになかった。 「朝比奈さん!」 俺が戻ろうとしたらハルヒに止められた。 「私たちまで捕まってどうするの!とにかく逃げるのよ!」 朝比奈さんはパトカーに囲まれた。 「こちら北署、こちら北署、全裸男の仲間と思われし女を包囲しました」 「ひぇ~、私はこの人とは関係ないですよ~。ただの忍者ですよ~」 手錠をかけられた古泉が暴れだした。 「僕は新人類です!旧人類に僕を拘束する権利などありません! 自ら服を着るなど猿以下の存在ですよ!その女の子も離してあげなさい!」 「ひぇ~、あなた誰ですか~?私はただの忍者です~。あなたなんか知りませよ~」 結局、古泉だけが連行された。 「古泉・・・」 俺は胸が痛くなった。 仲間を見捨てた自分に対して胸が痛くなった。 「なぁハルヒ、お前、忍者の格好してるだろ? 古泉を助けに行かないか?」 「なんでよ!無理に決まってるじゃない!」 「長門!なんとかしてくれ!」 「・・・無理」 その後、俺たちはそれぞれの家に帰った。 リビングでテレビを見ていると妹が 「キョンくーん、古泉君がテレビに出てるよ~」と叫びだした。 俺は妹の目を隠し、テレビを消した。 どうするんだよ古泉。 次の日、俺とハルヒは文芸部室で喧嘩をした。 「おいハルヒ!なんで古泉を見捨てたりしたんだ! 古泉だけならともかく、朝比奈さんまで見捨てるとは何事だ!」 「だってしょうがないじゃない!警察に勝てるわけないじゃん!」 「それとこれとは別問題だ!例え勝てなくても助けるのが仲間だろ!」 朝比奈さんは泣いていた。 「あのぉ、、2人とも喧嘩はやめてください・・・うぅ」 俺はすかさず朝比奈さんへ言った。 「朝比奈さんもなんで古泉を裏切ったんですか!」 朝比奈さんは大泣きして俺の言葉は耳に届いていないようだった。 その日、俺は留置所に行った。 古泉が牢屋に閉じ込められているはずである。 5メートルはありそうな塀を眺めていたら 中から古泉の声がした。何を言っているのかは分からない。 しかしいつもの演説的なものであることは分かった。 俺は門番の人に頼んで古泉との面会を許してもらった。 何重もの門をくぐり、薄暗い廊下を歩き、何枚もの扉を通り、面会室へたどり着いた。 透明な防弾ガラスの向こうに古泉はいた。 「古泉、、元気か?」 「会いに来てくれたのですね。とても嬉しいです。 しかし僕のことはもう忘れてください。僕は犯罪者です。 僕に関われば世間はあなたのことも犯罪者だと思うでしょう。」 「そうか、、お前がそう望むなら俺は何も言わない。お前とはもう関わらない」 「ありがとうございます。僕にとってそれが一番うれしいことです」 じゃあな、古泉。
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…… 「…ここはどこだ?」 気がつくと、俺は真っ暗な空間へと浮かんでいた。 目の前には地球が広がっている…隣には月らしきものも見える。 「ここは…宇宙?」 あまりに広大すぎる暗黒の大空間に、 青く澄みきった水の惑星を目の当たりに 俺はただ呆然と立ち尽くすだけだった。 ! 「地球が燃えている…」 青かった地球がいつのまにか赤く変色していた。 「一体何がどうなってんだよこりゃ…」 自分の置かれている状態もそうだが、全く状況がつかめない。 !? 「今度は透明に…?」 次の瞬間には地球は水色に近い透き通った色へと化していた。まるで氷で覆われたかのごとく…。 …… 「…また青に戻ったか。」 再び地球は青色へと戻った。しかし、どうやら何か様子がおかしい。 「陸地が…ない…?」 地球全体が真っ青な球体へと化していた。緑や茶色といった陸地が ことごとく消滅してしまっているのが見てとれる。陸が海に呑まれてしまったとでもいうのだろうか。 …… 今度はどこからか泣き声が聞こえてくる… 「この声どこかで…」 どこか聞いた覚えのある声。 「まさか…ハルヒか!?」 そう叫ぶと、いつのまにか声は聞こえなくなっていた。 「…え?」 ふと地球のほうに目をやって俺は驚愕した。なんと、先程まで見えていた地球が消滅してしまっている… いや、消滅というのは言い方が悪い。正しくは【見えなくなっている】と言うべきだろう。物を見るためには 言うまでもなく光が必要であるが、その光が四方を見渡しても見当たらないのだ… 光源体である太陽は一体…どこへ行ってしまったというんだ?? 再び声が聞こえる。 「…や…い…あた…したく…な…」 その声は、しだいに大きなものへとなっていく。 「いや…い…あた…こ…な…くない…」 …… 「嫌…っ!嫌!!あたしは…こんなことしたくない…!!!!」 !? ッ!! …… …デジャヴ いつもと同じ見慣れた俺の部屋。窓から朝日が射していることから、 おそらく今は朝なのであろう。昨日のように時計を確認するまでもない。 いや… 一応確認しておくか。 時刻は7 38 ほら見ろ、やはり朝じゃないか!と得意げに語っている場合でもない。一歩間違えりゃ遅刻じゃねーか畜生。 急いでかばんに教科書やノートをつめる俺。にしても自らの不覚さを嘆かずにはいられない。 なぜ俺は【目覚ましセット】という当たり前にして当然のごとく行為を、昨夜忘れてしまったというのか? それほどまでに、俺は昨日疲れてたってのか? 準備を終えた俺は廊下で妹と軽く挨拶を済ませた後、 食卓に並んだトーストを口に頬張り、潔く玄関を飛び出した。 …… 「はあ…はあ…まったく、いい運動だぜ…。」 今俺がいる位置は、学校に隣接するあの忌々しい長い長い坂のちょうど真下である。つまり、 俺はここまで全速力で走ってきた…というわけだ。携帯で時刻を確認、とりあえず遅刻は免れたようである…。 時間的余裕もあるので歩くとする。この坂を走らねばならないとなった日には自殺ものであろう。 それが防げたというだけでも、俺は今日も力強く生きられるというものである。 …ようやく落ち着いたところで、俺は昨晩の事象を振り返ることができた。 「まさか二日続けておかしな夢を見るとは…。」 その一言に尽きる。支離滅裂かつ荒唐無稽な夢など一体誰が進んで見ようなどと思うのか… まあ夢など言ってしまえば、全てそういうもんなのかもしれないが。とにもかくも、 まず話をまとめることから始めるとするか…と思ったのだが、そもそも抽象的すぎて 何をどうすればいいのかもわからん。とりあえず…特徴らしきものだけでも挙げていってみるとしよう。 ・地球の崩壊 ・謎の声 …明確に挙げられるのはこの二つくらいか。なぜ俺があのとき宇宙にいたのかは知らんが… (単に視点が宇宙だったってだけかもしれんが)地球が燃えたり氷ったりするのを、確かにこの目で見た。 ならば崩壊という表現は別に差し支えないだろう。そして極めつけは、夢が覚める直前に聞こえてきたあの声… 「あの声は…ハルヒだったのか?」 もしそうなのだとしたら、一昨日みた夢との関連性が見えてくる。一昨日の夢では地震やその他怪奇現象で 町が壊滅。昨日は地球が…規模こそ全く違うが、同じ【崩壊】というワードでくくることができる。そして… 思い出したくはないが、地震により家族が息を引き取った際、放心状態に陥っていた俺の脳内に響いてきた… ハルヒの声。あのときハルヒは『助けて!』言っていた。昨日の例の声は…確か『こんなことしたくない!』 とかいう内容だったかな。両者に共通することは、俺に向かって何らかのSOSを発信していたということである。 俺は常識人だ。ゆえに町や、ましてや地球荒廃などといった異常にさらに異常をかけたような とんでも事態が発生するなどとは…微塵も思っていない。ただ、あれらがハルヒの無意識の内に 発動した…俺に対する干渉なのだとしたら?一連の超常現象はあくまで比喩であり、夢の本質自体が 実は、ハルヒが俺に救助信号を発信するだけのただの手段でしかなかった可能性が浮上してくる。 つまり、ハルヒは今現在とてつもない悩みを抱えている…その可能性が非常に高いということである。 その悩みが何なのかは俺には見当もつかないが。というのも、最近のハルヒに変わった様子など 特に見受けられないからだ。万一それに俺が気付かなかったとして、長門や古泉がそれを見逃すとは 考えにくい。だから、なおさらである。 …… とまぁ、ここまでカッコよく主張してみたはいいものの… 一連の夢がハルヒの能力とは無関係の、本当の意味でのただの【夢】だったのだとしたら、 ここまで深く熟考している俺など、傍から見れば滑稽以外の何者でもないだろう。 そうである場合、谷口にすら嘲笑される自信がある。それでもだ、俺自身こんなネガティブな展開など 望んじゃいない。ハルヒが何か多大な悩みを抱えて苦しんでる姿なんて、想像したくもないからな。 「あら、キョンおっはよー。予鈴ギリギリね。」 教室に着き、俺はいつもと同じく後部座席にて座っておられる団長様に声をかけられた。 「そうみたいだな。遅刻を免れて助かったぜ。」 どうするか…朝っぱらからいきなりハルヒにこんなこと質問すんのもアレかもしれんが、 一応言っておこう。杞憂であれば、それに越したことはないんだからな。 「なあハルヒ。」 「ん?何?」 「お前さ、今何か悩んでることとかあったりするか?」 「…は?」 「言葉通りの意味だ。」 しばらく沈黙が続いた後、その均衡を破ったのはハルヒだった。 「…ぷっ、あっはっはっは!キョン、朝からどうしたの?何か悪い物でも食べた?あはははっ!」 どうやら、団長様は真面目に答える気などさらさらない様子である。 「んー悩みねーまあ、ないこともないわよっ!!」 おや?一応答えてくれるみたいである。しかし万遍無く浮かべている笑みから察すると、 やはり真面目には答えてくれないらしい。しかも、展開が大体予想できた。 「悩みの種はね…あんたよあんた!テストは赤点スレスレだし今日は遅刻しそうになるわで、 ヒヤヒヤもんもいいとこよ!あんたはもう少しSOS団の団員なんだっていう自覚を持ちなさい! 団長に泥を塗るマネなんて許さないんだからね!」 楽しそうに俺を断罪するハルヒさん。うむ、やはり予想通りだった。相変わらず、俺に言い放題なのであった。 「まあそれは半分冗談としてさ、朝からそんなこと聞くなんて一体どうしたのよ?」 さて…どうしようか。変にはぐらかすと直感が鋭いハルヒのことだ、 ややこしいことになる可能性大。ゆえに、ここは素直に答えておくとしよう。 「いや、お前が俺に助けを求めてる夢を最近見ちまってな。ちょっと気がかりになって聞いてみたってところだぜ。」 「…何それ、気持ち悪い夢ね…。」 同意しておこう。現実的に考えて、お前が俺に助けを求めるなんてことまずありえんからな。 「もしかしてあんた、あたしに従順にさせたいって欲望でもあるんじゃないでしょうね??」 気持ち悪いって、そっちのほうかよ! 「助けを請うってのはつまりその裏返しだし、夢ってのは密かに思ってるようなことが 反映されたりするもんだし…あたしに何か変なことでも考えてたら承知しないわよ!?」 いやいや、そりゃ考えが飛躍しすぎだろう…ってか願望が夢で具現化なんて、一昨日、昨日の 夢見りゃ絶対ありえんことを、俺は知っている。何が楽しくて家族が死ぬことや地球の滅亡を 望まにゃならんのか…まあ、さすがにこういう夢の内容までハルヒに話そうとは思わないけどな。 …そんなこんなで時は昼休み。俺は谷口&国木田と席を囲って弁当を食っていた。 ハルヒは相変わらず学食のようだ。 「ところで国木田、昨日休んでいたようだが体のほうは大丈夫か?」 「ん?ああ、おかげ様で。」 「さてはお前、勉強のしすぎで熱でも起こしたか?」 谷口が横から言葉をはさむ。 「だったらまだよかったんだけどね…単なる風邪だよ、ほら、もうすぐ12月だってこともあって 冷えてきたじゃない?そのせいかな。二人は風邪ひかないよう気をつけてね。」 「おーおー、まあそのへんは大丈夫だぜ。特にキョンはな。バカは風邪ひかないって言うだろ?ははは!」 谷口よ、どの口がそれを言うんだ…確かに俺は成績も下の中くらいでバカかもしれない。 が、お前はお前で俺より成績悪かった記憶があるんだがなぁ…気のせいか? 「それを言うなら谷口もバカだから風邪ひくことないね。いや~二人とも羨ましいよ。」 おお、俺が言わんとしていたことを代わりに国木田が言ってのけてやったぞ。 が、しかし、最後の一言は残念だ国木田…お前も俺のことバカだと思ってたんだな…。 「でもよ~そうそう例年通り寒くなるわけでもないみたいだぜ? 今朝の天気予報見てたら、来週の中頃は夏みたいな気温になるとかなんとか。」 「…谷口が天気予報を見るなんて珍しいな。」 「うるせーよキョン、俺だってそんくらい見るぜ。」 「どうせ朝食ついでに適当にTVのリモコンいらってたら偶然映ったってところなんでしょ?」 「国木田…お前鋭いな…。」 鋭いも何も、普段のお前の性格や言動を考えりゃ当然の帰結だとは思うがな。 しかし、夏みたいな気温か…そういや夢の中でも確かあのとき暑かった記憶が… …… 「キョン、大丈夫?顔真っ青だけど。」 「おいおい、バカは風邪ひかないって言った手前にこれかよ。」 気付かないうちに、俺は随分と陰鬱そうな顔になってたらしい。 「あー、いや、何でもないぜ。ちょっと寒気がしただけだ。」 「まさか風邪にでもかかったのかよ?」 「じゃあもうバカは谷口一人になっちゃったね。」 「国木田てめーッ!!」 お前らのコントを眺めてたら、あの悪夢が少しでも薄れたぜ。感謝するぞ谷口、国木田。 あんな未来…俺は絶対信じねーぞ…。 操行している間に放課後。またいつものごとく部室へと向かう俺。 「お、長門、お前だけか。」 「そう。」 俺が定着席に座ると、何かのCD-ROMをもってこっちにやってくる長門。 「これがSinger Song Writer…軽音楽部から借りてきた作曲用ソフト。 パソコンにインストールすれば即行使える。そして、これが説明書。」 「ん?ああ、これが昨日古泉が言ってたやつか!サンキュー、長門!」 早速パソコンを立ち上げてインストールする俺。 …部室に、団員それぞれにパソコンが宛てがわれていることには深く感謝せねばなるまい。 これもハルヒがコンピ研から強奪だの従属命令などといった暴虐の限りを尽くしたおかげか。 コンピ研の皆さんにはもはや乙としか言いようがない…ありがたく、今日もパソコンを使わせていただきますよ。 インストールが完了したあたりで古泉と朝比奈さんが部屋へと入ってきた。 と、よく見たら二人とも楽器を担いでいるではないか。おそらく昨日言っていたように 軽音楽部から借りたものなのだろう。来るのが遅かったのはこのせいだったんだな。 「って、大丈夫か古泉?」 「いえいえ、これくらいどうってことないですよ。」 キーボード1台のみの朝比奈さんはともかく、 古泉はあろうこともギター2台に加え、ベース1台の計3つも担いでいるではないか。 「わ、私古泉君を手伝おうと思ったんですけど…。」 「朝比奈さんはキーボードだけで十分すぎるくらいですよ。僕は好きでこれらを担いでいるんですから。」 相変わらずのさわやかフェイスで涼しく答える古泉。なるほど、女の子に負担を負わせたくないというヤツらしい ジェントルマン精神だが、俺がお前の立場でも間違いなくそうしていたであろう。何しろ朝比奈さんだからな。 「そうだ、良い機会だ。古泉よ、ベースの弾き方俺に教えてくれないか?」 「お安い御用ですよ。では早速始めてみるとしましょう。」 「じゃあ私もキーボードのいろんな機能を確認しとくとしまーす♪」 「私も…ギターをいらっておく。」 「長門はギター弾けるから別にその必要もないんじゃないか?」 「単純にギターに興味がある…ただそれだけ。」 長門に読書以外に関心のもてるものが現れるとはな…。文化祭にて、突発でいきなりギター引っ提げて ステージ上にハルヒたちが現れたときは何事かと思ったが、今ではそのことがこうやってSOS団みんなで バンドを楽しんだり長門の人間的嗜好の開拓といったことに繋がってる…こればかりはハルヒには 感謝しないといけねーかもな。あのときのハルヒの飛び入り参加は、長い目で見れば英断だったわけだ。 「なるほど、左から右へ1フレットずつ移るにつれて音が半音ずつ上がっていくのか。」 「その通りです。ちなみに手前の太い4弦から順に開放弦の状態だと E、A、D、Gの音が鳴りますよ。ミ、ラ、レ、ソのことですね。」 「開放弦ってのはどういう意味だ?」 「左手で何も弦を押さえずに弾く状態のことですよ。」 「おー、了解したぜ。」 「慣れたらTAB譜を見て弾くのもいかがでしょうか。 そっちのほうが、フレット番号が明記されていて弾くのには楽だと思いますよ。」 「TAB譜って何だ?」 「それはですね…」 ピン! ん?何だ??長門のほうから何やら音が聞こえたぞ。 「どうしたんだ長門?」 「ギターにチョーキングをかけていたら弦が切れた。ただそれだけの話。」 …その弦、まだ新しいやつじゃなかったか?一体どんなチョーキングをかけてたんだ長門?? 「おやおや、しかもこれは一番細い1弦ですね。これでは切れてしまっても仕方ありません。」 「やりすぎた。次からは自重する。」 …仕方ない…のか? まあ、しかし そんな長門が楽しそうに見えるのは 決して気のせいではないはずだ。良い趣味を見つけられてよかったな長門。 「な、長門さ~ん、助けてくださ~い!」 「何かあったの?」 「いくら鍵盤押してもキーボードから音が出ないんです…電源は入ってるはずなのにどうしてなんでしょうか?」 「これはシンセサイザーの部類。よって単体では鳴らない。 シールドでアンプに繋いで初めて、アンプから音が鳴る仕組みになっている。」 「あ、これアンプからじゃないと音出ないんですね…勉強になりました!ピアノから入った私には そういうの疎くて…あ、でも今ここにはキーボのアンプがないです…今日はあきらめるしかないみたいですね…。」 「その必要もない。そこにあるベースアンプでも代用は可能。」 「本当ですか!?ありがとうございます長門さん!」 「礼ならいい。」 「キョン君、ベースのアンプ貸してください!お願いします!」 「どうぞどうぞ、使っていただいて結構ですよ。今日はベースの基本技術を学ぶだけでアンプは使いませんからね。 そんな感じで、俺たちは有意義な会話をしていた。いつもは古泉とボードゲームだのカードゲームだので 時間を費やしていた俺であったが…こういう時間もなかなか楽しいじゃないか。一昨日、昨日の悪夢のことを 一時的にでも忘れられるという意味でも、尚更貴重な時間である。特に、昼休みに谷口から例の天気予報の話を 聞いてからというもの、放課後までずっとそれを引きずっていた俺には…な。もちろん、今でもそんな未来は 信じちゃいないさ。ただ、一つでもそういった判断材料があると不安になる…それが人間というものであろう。 本来なら放課後にでもこれら夢の一部始終について長門や古泉に相談しようと思ってはいたのだが、 正直今のこの談笑している空気を壊したくはなかったし、何よりハルヒ本人が部室に顕在だから話せなかった ってのが一番の理由だな。本人の目の前で能力云々語るのは言わずもがな、禁句である。 …いや、待て。 今気がついた。そういえば、ハルヒはいまだ部室には来ていないではないか。 いつものあいつなら…とっくに来ていてもおかしくないはずだが。 「おや、どうされたんです。涼宮さんのことが気がかりですか?」 「いや、気がかりってわけでもないんだが…やけに来るのが遅いなと思ってな。」 「掃除当番にでもなってるんじゃないですか?」 良い指摘ですね朝比奈さん。が、それにしても遅いような気がしますが…。 「!」 突然立ち上がる長門。 「涼宮ハルヒが…倒れた。」 …俺はベッドで横たわっているハルヒを見つめていた。 「先生、ハルヒの具合はどうなんです!?」 「大丈夫、大事には至ってないわ。おそらく軽い貧血ね。」 「そう…ですか。」 「今日のところは安静にしておけば大丈夫よ。幸い明日は土曜日だから、 それでも気分が治らないようなら、病院に行って診てもらえばいいと思うわ。」 事なきを得たようで、ひとまず俺は安堵の表情を浮かべた。 ------------------------------------------------------------------------------ 「倒れたって…どういうことだ長門!?」 「涼宮ハルヒの表層意識が、たった今消滅した。」 …??意識が消滅?何を言っているんだ?? 「原因は不明。今それを解析中。」 「長門さん!涼宮さんは今どこにいるんですか!?」 「旧校舎の玄関口からすぐ入ったところの廊下。おそらく部室へ向かう途中に倒れたものだとみえる。」 「キョン君、何をボサっとしてるんですか!?早くそこへ行ってあげてください!!」 突然の事態に状況が把握できずうろたえていたのであろう俺に、怒鳴りつける古泉と朝比奈さん。 「お…おう…!お前らはどうすんだ!?」 「長門さんが解析に手間暇かけている時点でこれは非常事態に他なりませんよ。 身体機能における単なる物理的損傷ではない…そういうことですよね長門さん??」 「そう。」 「であるからして、我々は我々でできることをします。原因の調査および機関への連絡その他をね。」 「今、涼宮さんの隣にはキョン君がいてあげるべきです!」 考えるよりも先に体が動いたのか、気付くと俺は廊下へと跳び出していた。 もちろん、ハルヒのもとへとかけつけるために。 正直、いまだに俺は混乱していた。そりゃそうだろう?ついさっきまでいつものごとく ピンピンしていたハルヒが…意識を失う?倒れる?一体何をどうしたらそんな展開になるってんだ?? 説明できるやつがいるなら今すぐ俺の所に来い。 しかし、自分にだって今すべきことはわかってる。この際、原因などどうでもいい… ただ一つ言えることは、一刻も早くハルヒの容態を確かめ、そして救ってやることである。 …… ハルヒを見つけるのにそう時間はかからなかった。案の定、長門の指定位置にて ハルヒはぐったりとした様子で壁に背を向けた状態でもたれかかっていた。 とりあえず最悪の事態は回避できたようだ。意識を失うタイミングにもよるが、頭から地面に激突した際には 最悪、脳震盪に陥る可能性だってある。しかし、このハルヒの体勢から察するに、どうやらハルヒは徐々に 薄れてゆく意識の中、反射的に頭だけは守ろうとしたのであろう…壁にもたれかかっているのがその証拠である。 例えば街中で運悪く出くわした不良に背負い投げでもされたとしよう。柔道に精通している者ならば、 とっさに受け身をとろうとするはずである。野球にてピッチャー返しをしようものなら、投手は瞬間の中で 球をキャッチしようとする動きに出るはずである。 今のハルヒにも同じことが当てはまる。スポーツ万能&運動神経抜群の涼宮ハルヒだからこそ、 成し得た芸当と言えるかもしれん。正直、俺がハルヒの立場だとどうなっていたかわからない。 ハルヒの顔に手を近付ける俺。どうやら息はしているようだ。俺の動作に一切の反応を見せないことから、 どうやら本当に意識を失ってしまっているようである。見方によっては眠っているようにも見えるが… とにかく、俺はハルヒを背負い、急いで保健室へと駆け込んだ。 ------------------------------------------------------------------------------ そして話の冒頭へと戻るわけである。 …しかし保健の先生には悪いが、俺にはハルヒの倒れた原因が単なる貧血には思えない。 元気のかたまりとも言えるハルヒに貧血など、不似合いにもほどがある。おそらく、それだけは 天地がひっくり返っても起こりえない事態のはずだ。何より、長門や古泉の尋常ではない焦りから判断しても、 単なる生理現象でないことだけは確かだろう。とにかく一刻も早いハルヒの回復を…俺は待ち望んでいた。 「……ん…」 …意識を取り戻したようである。 「…ハルヒ?!大丈夫か??」 「あれ、キョン…何でこんなとこに?…ってか何であたし保健室にいるわけ…?」 「お前が旧校舎の廊下で倒れているところを、俺がここまで運んできてやったんだ。」 「うそ…?そういえば手や足に力が入らないわ…。倒れたってのは本当…みたいね。 無様な姿をあんたに見せちゃったわね…。」 「どうってことねーよ。お前が無事で何よりだ。」 「…とりあえず、運んだってのが本当なのなら、一応礼は言っとくわ。ありがと…しかし困ったわね。 家までどうやって帰ろうかしら…。」 「それについては心配およびませんよ。」 うお?!いつのまにか背後に長門に古泉、朝比奈さんが立っているではないか。 もう調査とやらを済ませてきたのであろうか。 「タクシーを呼んできてます。いつでも発進できる用意はできてますよ。」 もうそんな手配まで済ましていたのか…相変わらず対応が速くて助かるぜ古泉。 「古泉君ありがとう。みんなには迷惑かけちゃったわね…。」 「そんなことどうでもいいんですよう!涼宮さんが無事でいられただけでも私嬉しいです…。」 「みくるちゃん…心配してくれてありがと。でも、もうあたし平気だから!ほらこの通り!」 潔くベッドからとび降り、仁王立ちしてみせるハルヒ。っておい、いきなりそんなことして大丈夫かよ?? 「ハルヒ、お前が元気だってことはわかったから、とりあえず 今日は無理はするな?俺がタクシーのとこまで背負っていってやるからさ。」 「まあ、あんたがそこまで言うなら仕方ないけど。」 渋々俺の背中にもたれる団長様。 …… タクシーには俺とハルヒの二人が同乗した。本当は長門と古泉、朝比奈さんも 付き添いたかったらしいが、あいにくタクシーにはスペースというものが限られている。 一旦古泉たちとは別れ、俺はハルヒを家まで送っていくのであった。 「しかしお前が倒れたというからびっくりしたぞ俺は。一体何があったんだ?」 「それはあたしが知りたいくらいよ!気付いたら意識がとんでたんだし…。」 「最近何か無理でもしてたんじゃないか?そのせいで一気に疲れがドバーッときたとか。」 「特に、何か無理をした覚えもないわ。」 「じゃあ精神的なものか?ストレスとかさ。」 「何に対してのよ?」 「いや…俺に聞かれてもな…。」 結局そんなこんなではっきりとした原因はつかめないまま、俺たちはハルヒ宅へと着いた。 「今日はゆっくり休めよな。なんせ明日は土曜だ。昼まで寝てたっていいんだぜ?」 「あんたねえ…あたしをバカにしてんの?ま、いいわ。とりあえず、今日はどーも。」 団長様が一日に二度も俺に礼を言うなんて、珍しいこともあるもんだな。 ハルヒと別れを済ませたあたりで、ちょうど携帯から着信音が鳴る。古泉からだ。 「もしもし、俺だ。」 「古泉です。涼宮さんは無事家まで戻られましたか?」 「おお、そりゃ元気な様子でな。」 「それはよかったです。ところで、涼宮さんが今日突如として昏睡状態に陥った原因についてなんですが…。」 息をのむ俺。 「長門さんとも話したんですが…正直に申し上げましょう。これは一言二言で伝えられる代物ではありません。」 …どうやら予想以上に深い事情がありそうな様子である。 「明日何か用事はあったりしますか?」 「用事?特にないぞ。」 「それは助かります。突然ですが…今日の夜11時に駅前近くのファミレスに来てほしいと言われたらどうします?」 「つまり、朝まで長話できそうなとこに集まろうってことだろ?全然構わないぜ。」 「ご明察です。それに加え、こういった場所だと食事も好きなときに注文できたりしますから、 聞き疲れを起こしたりしたときに、何かと都合がいいかと思いまして。」 なるほど…どうやら相当長い話になりそうである。それにしても食事か。なかなか用意周到じゃないか。 「だがな、なぜ11時なんだ?今6時だし、8時集合にしたっていいようなもんだが。」 「確かにその通りですね。しかし、もう少しだけ我々に時間をくれませんか? まだ原因の全てを把握できたわけではないのですよ。」 何、そうなのか。 「いえ、今のは表現が適切ではないですね。あくまでこれは僕自身の問題です。」 ?どういうことだ? 「今回の原因について、僕はかつてないほどの膨大な情報の処理や解釈に追われ… 弱音を吐こうなどとは思ってはいないのですが…正直、今僕はパニックに陥っている と言っても差支えないかもしれません。それほどまでに窮した事態なんですよ…。」 「な、何だ??その原因とやらがそこまで震撼させるような内容だったってのか??」 あの古泉が壊れかかってるんだ、おそらく話とやらは想像を絶するレベルなんだろう。 それを改めて認識したせいか、しだいに話を聞くのが怖くなってきた自分がいる。 「ですからその処理および解釈にもう少し時間がかかるということです。 そのへんはどうか、ご察しのほどをお願いします…。しかしですね、僕はこれに立ち向かいます。 立ち向かわずしてどうやって涼宮さんを救えますか。」 そうだ…これに目を背けたら、ハルヒは一体どうなるんだ?今日はあの程度で済んだが、もしかしたら次は こうはいかない可能性だってある。最悪の事態も考えられる。なら、俺も覚悟して立ち向かおうじゃないか。 それがハルヒを助けることに繋がるのならば…俺はそのための努力を惜しまない。 「長門さんと朝比奈さんにも連絡はつけています。では、夜11時にまた会うといたしましょう。」 「おう、またな。」 …まだ集合の時刻まで時間はある。 それまで家で仮眠でもとっておくとするか。話とやらは朝までかかるのだろうし。 …… 家に着いた俺は、とりあえず晩飯を食い、部屋に向かった後ベッドに横になった。タイマーは…念のために 10時半にセットしておく。寝過ごしたりでもしてしまうようなら、それこそ打ち首にされてもおかしくない。 そう例えられるくらい、今後を左右する重要な会議になるはずだ。 「少し眠るだけ…だ。さすがにまたあんな夢は見ねえよな…?」 内心不安だったが、しかしこればかりは気にしてもどうしようもない。 とりあえず、俺は目を閉じ、寝ることに専念した。 音が鳴っている… 俺はアラームを消した。 10時半…どうやらちゃんと起きられたようである。まだ少し眠たいが、そんなことを言ってる場合ではない。 さて、親に何と言うかだが…『友達の家で寝泊まりする』とでも言っとけば、まあOKだろう。 俺はコートを手に取り、部屋から出ようとした。そのときだった。 「ようやくお目覚めってわけだ。」 ふと背後から声が聞こえた。はて、これは幻聴か何かであろうか?当たり前だが、この時間帯俺の部屋には 俺一人しかいない。妹が勝手に部屋に侵入した?それはない。なぜならその声は男のものだったからだ。 しかもどこかで聞き覚えがある… 俺は後ろを振り返った。 「てめえは…!」 予想外の人物に俺は驚愕した。いや、俺が忘れていただけで、こいつと再び会うことは 必然だったのかもしれない。とっさに拳に力が入り、臨戦態勢に入る俺。 「おいおい、そんなに身構えなくったっていいだろう。別に僕は、あんたに危害を加えようなどとは思っちゃいない。」 どの口がそれを言うんだ。俺はお前らのしでかしたことを忘れたわけじゃねえぞ。 「誘拐の件についてはすでに謝っただろう?…まあ、それはいい。 今日は言いたいことがあってここに来た。」 朝比奈さん大の言葉を思い出す俺… 『藤原くん達の勢力には気を付けてください。』 …藤原…てめえ、一体何企んでやがる? 「差し金は誰だ?何の目的でココに来た??」 「…勘違いしてないか。確かに、この時代への時間移動命令については上からの指示だが、 あんたに会いにきたことに関しては、単なる僕の独断だ。」 「独断だと?そこまでしてお前は俺に何か言いたいってわけか。が、生憎様だな。どうせ俺に巧みな言葉をかけて 騙そうって魂胆なんだろうが、そうはいかねえ。朝比奈さんから、すでにそれに関しては忠告を受けてある。」 「何、朝比奈だと!?」 しまった、つい朝比奈さんの名前を出してしまった…まあ、もともと朝比奈さん大は藤原たちの勢力とは 敵対関係だったから、これも今更か。別に危惧するような情報流失でもない…と、とりあえず俺は信じたい。 「まさか…昨日の異空間からの転移は…ふ、まさか現行世界に直々干渉してくるとは。」 「おい、何ぶつぶつ言ってんだ?」 「いや、とりあえずあんたの話を聞いて理解はした。おそらく、僕が伝える予定内容を聞かせたところで、 あんたはそれに従わないであろうことにはな。やはり、僕らだけで何とかする問題だったか。」 「聞くだけ聞いてやる。一体何を伝えるつもりだったんだ?」 「『朝比奈みくるには気をつけろ』端折って言うならそういうこった。」 「なるほど、どうやら聞くだけ損したみたいだ。お引き取り願おうか。」 「まあ、はなからあんたは宛てにしちゃいないさ…さて、面倒なことになる前に撤収するとしようか。 九曜、もういいぞ。ここの時間軸を正常に…加えて、今の会話記録もこいつの記憶から抹消してやれ。」 「---了解した-------」 !?九曜だと??あいつもいたのか!!? その瞬間だったろうか 俺の意識はブラックアウトした
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「お久しぶりね、キョン君」 ん・・・?この声は・・・?まさか!? そう、俺は、一番聞きたくない奴の声を聞いて目を覚ましたのだった。 「朝倉!?どうしてお前らがここにいる!?というかこれはどうなっているんだ!?それに・・・そこにいるのはハルヒか!?おい、ハルヒ!無事だろうな!?」 場所は今、文芸部部室、もといSOS団アジト。いつもの平穏な空気など微塵も残っておらず、今や部室内は一面が闇に包まれ、暗黒に染まっている。 その中で、ひとつの闘いが、今まさに幕を閉じようとしていた。 「なんか彼、ごちゃごちゃうるさいけど、覚悟はできてるわね?それじゃあ本当に終わりにしましょうか、涼宮さん?いくわよ?・・・・・の攻撃!プレイヤー涼宮ハルヒにダイレクトアタック!!!」 何も言わずにモンスターの攻撃を喰らって吹っ飛ぶハルヒ。そしてライフも0になった。 「大丈夫か!?ハルヒ!?」 駆けつけようにも情報操作でもされているのか、俺の体はピクリとも動かない。 クソ・・・なんでこんなことになっちまったんだよ!? なんで朝倉が復活してるんだ!?こりゃあ一体どうなっているんだ!?これもハルヒの力のせいなのか!? なぁ、ハルヒ。本当にお前がこんな状況を作り上げたのか? 俺は、『闇のゲーム』に立ち会うこととなった原因へとフラッシュバックした。 ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・ 俺は、相変わらず自分に搭載されているコンピューターでは解析不能な「英語」という名の謎の文字列の授業を、素晴らしき「夢」という名の世界に旅立つことによって克服し、SOS団のアジトと化した我等が文芸部室へ歩みを進めていた。 ハルヒはハルヒで、授業が終わるや否や教室を台風の通り過ぎるようなスピードで飛び出していった。たしか手に何か本みたいなのを持っていた気がするな。あまりのスピードでよくわからんかったがな。本なんかアイツに似合わんが一体どうしたんだ? なんて、そんなことを考えているうちに俺の足は文芸部室のドアの前についていた。 コンコン、とノックをする。もしかしたら、麗しのマイスイートエンジェル、朝比奈さんがお着替え中かもしれんしな、うん。たまにはノックをし忘れたことにしてそのお姿を拝見してみたい、なんて考えたことないぞ。本当だ。本当だからな。 「はぁ~い、どうぞぉ~」 天使のような声が耳をうずかせる。どうやらもう着替えは終わっているようだ。ちょっと残念・・・なんて思ってないからな。 かちゃり、と戸を開けると、そこにはいつもの席で石像の様に静かに本を読み続ける宇宙人、小動物のように愛くるしい未来人、0円スマイルを貼り付けてニヤニヤしている超能力者、そして、我等が団長、涼宮ハルヒがいた。 「すぐにお茶を淹れますから、ちょっと待ってて下さいね~」 いつもいつもありがとうございます、朝比奈さん。もう俺はあなたのお茶なしでは生きていけませんよ。 「うふふ、ありがとうございます。お世辞でもうれしいです」 そういうと朝比奈さんはちょこちょことお茶を淹れにいった。教室で少し様子のおかしかったハルヒは、というと、相変わらず、まるで長門のように本のようなものを読み漁っていた。 その本が何かって?そんなの俺にも分からんさ。なぜならカバーをかけているからな。 それに、険しい顔して読んでるもんだから、聞く気にもならんしね。 「おい古泉、ハルヒのやつ、また機嫌でも悪いのか?授業の時からずっとあんな感じなんだが」 「いえ、そういう事はないようです。僕のところにはなんの連絡も入っていませんし」 まあ古泉がそういうんだ。間違いはないだろう。触らぬ神に祟りなし、というやつか。 「それはそうと、久々にアレ、やりませんか?実は結構楽しみにしてたんですよ」 別に構わない、というより実は俺も結構楽しみにしていたぞ。最近ご無沙汰だしな。だが手加減はせんぞ。俺の無敗伝説をコレでも更新したいからな。 「今回は甘く見ていると痛い目にあうかもしれませんよ?」 望むところだな、それじゃいくぞ! 「「決闘(デュエル)!!!」」 結果から言ってしまうと俺の勝利だった。マイスイートエンジェル、朝比奈さんの前で醜態を曝す訳にはいかないからな。長門もちらちらと見てたし。だが、古泉は古泉でなかなか強かった。 少しでも手を抜いていたら下手したら負けてたかもしれん。 「今回は結構自信があったのですが。いやはや、やはりあなたはお強いですね」 いつもより一割くらい減ったニヤケ具合で話しかけてくる。お前はそんなに俺に負けたのが悔しかったのか?でもお前も十分強かったぞ。 「あなたが僕のことをそういうなんて珍しいですね。僕もまだまだ捨てたもんじゃないってことですか」 調子に乗るな。そういうのは俺に勝ってから言え。挑戦は受けてたつぞ。 「ではお言葉に甘えまして、もう一勝負どうです?今度は負けませんよ?」 いいだろう、相手をしてやるよ。来い、古泉! 「それでは・・・」 「「決・・・」」 闘と続けようとしたが、突如、 「覚悟はいいわね、キョン!!!滅びの呪文、デス・アルテマっ!!!」 との言葉とともに後頭部に激痛が走る。あまりの痛みに、少しの間、頭を抱えたまま悶絶する。そしてしばらくして後ろを見ると、モップの柄をもって、目をキラキラ輝かせながら団長様が仁王立ちしていた。 「痛ってえな!なにしやがる!」 「何ってデス・アルテマよっ!あんた、聞いてなかったの?」 そういう問題ではない。俺が聞いているのは何でお前がモップの柄で俺の頭を叩いたのかってことを聞いているんだ。ただでさえ赤点レーダーギリギリ低空飛行な俺の頭がこれ以上悪くなったらどうするんだ? 「あんた、もうあんまり悪くなりようがないじゃないのよ。そんなことよりやっぱりデュエルモンスターズは王国編よね!ストーリー的にあれが一番面白いわよ!」 そうかい、俺の話はもうスルーかい。そしてお前が今日ずっと読んでいたのはアレだったのか・・・。それと古泉、お前、見えてたんならあいつをちゃんと止めろよ。俺は痛いこととか苦しいこととかはまっぴらなんだからな。 「すみません、不注意でした」 そのニヤニヤ顔で言われても全く誠意が伝わってこないのだが。 「ごごご、ごめんなさい、キョン君・・・」 いえいえ、あなたが謝るなんて、とんでもないですよ、頭を上げてください、朝比奈さん。悪いのはハルヒの馬鹿なんですから。 「…………」 お前も気にしなくていいぞ、長門。 「あんたを差し置いて誰が馬鹿よっ!それにあんたねぇ、もう過ぎたことを気にしても遅いのよ!ちゃんと前を見なくっちゃ、前を!」 やれやれ、当の本人がなんとも思っちゃいないなら意味ない、か。 「それよりもキョンに古泉君、あんたたちがやってるのって、デュエルモンスターズよね!?私もいまデッキあるのよ。さあ!どっちか決闘しなさい!」 そういって、ハルヒは自分のポケットからデッキを取り出した。目には炎を灯らせてな。しかもなぜか腕章には『決闘王』の文字が。 悪いが古泉、続きはまた今度になりそうだな。 「そうですね。残念ですが仕方ありません」 「そこっ!コソコソしゃべらない!じゃあ・・・そうね、キョン。あんたが相手しなさい!」 やれやれ、もうすっかりさっきのことを忘れてやがる。仕方ない、カードで軽く仕返しでもしてやるか。 「分かったよ、こい、ハルヒ」 「あんたなんかに絶対負けないんだからね!」 こうして俺たちの決闘は始まった訳だが、思惑通りあっさり勝負は決まってしまった。 「・・・え?嘘よ・・・こんなの嘘よ・・・もう一度勝負よ!」 構わんぞ。何度やっても変わらんと思うがな。それに俺の鬱憤晴らしにもなるしな。 その後、三回ほど決闘し、俺が全勝したところで長門がパタンと本を閉じて、お開きとなった。俺に数連敗してぶつくさ言いながらぶーたれているハルヒをよそ目に俺はカードを片付け、デッキをしまおうと鞄をあけた。そうしたら中に何のラベルも貼られていない謎のディスクが入っているではないか。ここに来る時は確かなかったよな?古泉とやるために鞄を開けたときは・・・・覚えていない。が、恐らくその時にでも紛れ込んだのだろう、と思って他の部員に声をかけた。 今思えばあんな怪しいものはないのだが、そのときの俺はなんとも思わなかったのかね。出来る事なら過去に戻って面倒なことになるからやめろ、と過去の俺に言ってやりたいくらいだ。残念ながら俺にそんな記憶はないので、できない話なんだろうがな。 「このディスク、誰のだ?俺の鞄に入っていたんだが」 古泉、お前か? 「いいえ。違いますよ」 じゃあ長門か? フンフンと頭を横に1ミクロンくらい振る。 なら朝比奈さん、あなたのですか? 「ふえっ?何ですか?え~と、そのディスクですか?う~ん、違う・・・と思いますよ」 ということは消去法でハルヒ、お前のだな? 「違うわよ。でも何か怪しいわね!キョン、これの中身調べるわよ!」 と言ってディスクを俺の手から奪い取った。 「なぁ、長門、あのディスク、大丈夫なのか?」 「……分からない。あのディスクには高度なプロテクトがかけられている。それを解くには情報操作が必要」 と言ってチラッとハルヒを見た。そうか、アイツがいるからそれができないんだな? そう聞くと長門はコクッと頷いた。古泉もこの話を聞いていたらしく、アイコンタクトを送ってくる。ピコッ、とパソコンの起動音がした。 「さぁて、この中身はなんなんでしょうね!?もしかして宇宙人からのメッセージが入ってるとか!?あ!まさか!キョン、実はあんたのディスクで、中にいやらしい画像とかが入ってるんじゃないでしょうね?」 馬鹿かお前は。もし本当に自分のだったらいちいち人に聞かんぞ。 「さぁ、どうかしら?あ、ついたついた」 そういって起動したパソコンに目を移す。長門は少し緊張した顔をしている。古泉もいくらか真剣な目をしていた。 カチッ。 その音を聞いて俺は自分の意識を突如として失った。 ================================================================= 「一体何よこれ!?どうなってんのよ!」 ディスクのデータをクリックして起動させたとたん、部室一面が闇に覆われてしまった。 ぱっと見、前に見たキョンと二人っきりの夢の世界に似てるけど・・・ ううん、ぜんぜん違うわね。あの巨人こそいないものの、なんか禍々しいものを感じるというか・・・ 「ね、ねぇキョン?」 これどうなってんのよ!?と言いかけてあたしは言葉を失った。 だってそこにはさっきまでいたはずのキョンが、いや、キョンだけじゃない。有希やみくるちゃんや古泉くんといったみんなが、どこを見回しても影も形もなく消えちゃってるんだもの。 もう一度パソコンに目を移す。だってこれをやってからおかしくなったのよ?だったらもっかいなにかをやれば元に戻るはずよ!そう思ってパソコンに手を伸ばしたとき、突如あたしの後ろから声がした。 「ふふふ、お久しぶりね、涼宮さん?」 ハッとして後ろを振り返る。 「あんたは・・・朝倉?!いつの間に!?いったいどこから!?」 「あら、せっかくの再開なのに、その言い様はないんじゃないの?」 「そんなことどうでもいいのよ!それよりも、ねえ、あんた、みんなのこと知らない!?」 「知ってるわ。だってあたしが閉じ込めたんだもの。」 「ならさっさと解放しなさい!」 「いいわよ。ただし、命をかけた『闇のゲーム』でわたしに勝てたら、だけどね。もちろん決闘で」 そういって朝倉は左手をガッツポーズの形にした。その腕にはいつの間にか決闘盤(デュエルディスク)がついている。一体いつの間につけたのかしら?それに『闇のゲーム』って・・・まさにあたしが今日読んでたあたりじゃない!でも今はそんなこと気にしてる場合じゃない。 「なんだかよく分かんないけど、その勝負、乗ってやろうじゃないの!このあたしに決闘を申し込んだことを後悔させてやるわ!」 そう言ったとたん、急に左手に重量を感じた。なんと、あたしの腕にも決闘盤が。 ほんと、これこそまさに不思議よね。・・・てそんな場合じゃなかった。 「分かったわ。それじゃあいくわよ?」 「「決闘!!!」」 掛け声とともにあたしたちはデッキから5枚のカードを引いた。 「ふふふ、闇のゲームの始まりよ!わたしの先行、ドロー!そうね、ここはリバースカードを2枚セット、さらにモンスターを守備表示でセット。これでわたしのターンは終了」 朝倉がカードをセットするのと同時に巨大なカードのビジョンがブォンという音と一緒に部室内に現れる。何よこれ!超おもしろそうじゃないの! 「それじゃいくわよ!朝倉!あたしのターン!ドロー!あたしはヂェミナイ・エルフ(攻1900/守900)を召喚!」 さっきと同じように、ブォンという音とともにフィールドに双子エルフのヴィジョンが出現する。 「それじゃ、いくわよ!ヂェミナイ・エルフであんたのモンスターを攻撃!」 エルフの姉妹の息のあったコンビネーション技が相手に決まり、セットされたモンスターがパリーンという音とともに撃破される。凄いじゃないの、これ!!! 「やったわ!どうよ、朝倉!さっさと観念しなさい!」 「ふふっ、ありがと、涼宮さん。あなたの攻撃したモンスターはリバースモンスター、メタモルポット(攻700/守600)だったの」 メタモルポット・・・確かアレは・・・ 「あなたの攻撃でメタモルポットは表表示となり効果発動!お互いのプレイヤーは手札を全て捨てて、新たにデッキから5枚引く」 やっぱり!?せっかく手札にいいカードがあったのに!ううう、悔しいわね。 「あんた、よくもやってくれたわね!?」 「ううん、本当はこれからなのよ?」 といって朝倉が微笑む。それを見たあたしは、なんだか嫌な予感がしたの。まあそれは奇しくもあたることになるんだけど・・・ そして突然、ウヲヲヲヲヲヲという地獄の底から響いてくるような雄たけびが聞こえ、暗黒の渦が現れ、雷とともに中から一体の白銀の悪魔がフィールドに舞い降りた。 なんで!?なんでこんな強そうなモンスターがいきなりでてくんのよ!? 「このカードは暗黒界の軍神シルバ(攻2300/守1400)。このカードは他のカードによって手札から墓地に送られたとき、フィールドに特殊召喚することができるの。あなたがメタモルポットを攻撃してくれたおかげよ。そのおかげでデーモンの召喚が墓地にいっちゃたんだけどね。一応お礼を言わせてもらうわ」 何よそれ、反則じゃない。いきなり2300とか対抗できるわけないじゃないの! 「だ、だったらリバースカードを1枚セットしてターン終了よ!」 朝倉、かかってきなさい!あんたなんか次のターンでボコボコにしてやるんだから! 「わたしのターン、ドロー!まずは手札から魔法カード、未来融合-フューチャー・フュージョン-を発動!このカードが発動したとき、わたしは融合モンスターを指定して、それの融合素材をデッキから墓地に送る。そして2ターン後のスタンバイフェイズ時にその融合モンスターを特殊召喚することができるの。ちなみにわたしが選ぶモンスターは有翼幻獣キマイラ。よって、デッキから幻獣王ガゼルとバフォメットを墓地に送るわ」 ううう、厄介なカードね。でもなんでキマイラ?あれはそこまで強くないじゃない。 「そして手札からシャインエンジェル(攻1400/守800)を召喚!」 リクルーターね。戦闘で破壊してもデッキから特殊召喚してくる嫌なカードだわ。 「ふふふっ、それじゃバトルフェイズね。いくわよ!暗黒界の軍神シルバでヂェミナイエルフを攻撃!」 やっぱり来たわね。でもこの攻撃をくらうわけにはいかないのよ! 「今よ!リバースカードオープン!攻撃の無力化!よってシルバの攻撃は無効よ!」 「なんですって!?」 「残念だったわね、朝倉!これであんたのバトルフェイズは終了よ!」 「やるわね。ターン終了よ」 ふう、危なかったわ。エルフが破壊されてたら結構やばかったかもね・・・いくわよ!朝倉! 「あたしのターン!ドロー!あたしは手札から魔法カード、召喚師のスキルを発動っ!このカードは、デッキから星5以上の通常モンスターを手札に加えるカード。あたしはこの効果で真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)を手札に加えるわ。」 「あら、あなたのフィールドにはモンスターは1体しかいないわよ?どうやって出すつもり?」 「まだあたしのメインフェイズは終わってないわ!今度は手札から黒竜の雛(攻800/守500)を召喚!」 「ふふっ、なぁに、そのかわいい竜は・・・ん?・・・・はっ!そ、そのカードは!?」 「ようやく気がついたようね、朝倉!あたしは黒竜の雛の効果を発動!表表示でフィールドに存在するこのカードを墓地に送ることによって、あたしは手札から真紅眼の黒竜を特殊召喚することができる。出でよっ!真紅眼の黒竜((攻2400/守2000)!」 フィールド上にいた可愛らしげな雛が閃光に包まれたかと思うと、疾風とともに中から大きな黒竜が現れた。くううう、かっこいいじゃない!あたしのレッドアイズ!!! 「えっ・・・ここで一気に形勢逆転されるなんて!?」 朝倉の顔に驚きの色が浮かぶ。いくわよ、レッドアイズ! 「バトルフェイズに入るわ!レッドアイズでシルバに攻撃!」 レッドアイズが口を開き、そこに熱く燃え盛る炎がみるみるうちに集まっていく。 「喰らいなさい!黒・炎・弾!!!」 レッドアイズの口から炎が発射され、シルバを捕らえた。ドガァァァァァンという轟音の後にはもはやシルバは完全に消え去っていた。 「くっ!!!やるわね!?」 よし、朝倉のライフが3900になったわ。このまま一気に攻めるわよ! 「それと、ヂェミナイエルフでシャインエンジェルを攻撃!」 「きゃあああ!!!!」 これで朝倉のライフは3400。このまま一気に押し切るわよ! 「ちょ、ちょっと待ってもらえる?シャインエンジェルの効果を発動するわ」 なによ?なんかあるわけ? 「シャインエンジェルが先頭で破壊されたとき、わたしは攻撃力1500以下の光属性モンスターを特殊召喚することができるわ。だからわたしはもう一度シャインエンジェルを特殊召喚」 リクルーターだったのすっかり忘れてたわ。まぁ盾ってわけね。なかなかしぶといじゃないの。 「これであたしのターンは終了よ」 「それじゃあわたしのターンね。ドロー!そうしたらリバースカードを2枚セット。シャインエンジェルを守備表示に。これでターン終了するわ。かかってきたらどう?涼宮さん?」 なんだ、朝倉ったらよくわからない魔法使っただけで何もしかけてこないじゃない。あのリバースカードは気になるけどね。あたしのライフはまだ無傷だし、攻撃あるのみ、かしら。 「あたしのターン、ドロー。下級モンスターはこない、か。なら戦うしかないわね、いくわよ、ヂェミナイエルフでシャインエンジェルを攻撃っ!」 どうどう?トラップは来るの!?・・・とハラハラしたが、どうやら間違いだったみたいね。だって、苦い顔しながら効果でもう一度シャインエンジェル出してきたくらいだもん。 これってかなりのチャンスよね!? 「続けてレッドアイズでシャインエンジェルを攻撃よっ!黒・炎・弾!!!」 朝倉のモンスターは攻撃表示。特殊召喚されるのは厄介だけど、1000ダメージは大きいわね。なんて思ってる間に黒炎弾がシャインエンジェルに命中し、爆発が起きる。それで出た爆煙がフィールドを埋め尽くした。 でも朝倉が包まれる寸前、その顔に笑みが浮かんでいたのは気のせい、よね・・・? 「どうよ朝倉。1000ダメージは痛いでしょ!?あんたがいくらモンスターを呼ぼうと・・・」 「それ、よんでたわよ、涼宮さん!あなた、自分のライフを見てみなさい」 煙の中で朝倉が笑う。何が言いたいのよ?あたしのライフ4000のままでしょ?減ってるわけが・・・・・ あれ?なんで?なんであたしのライフが3000になってんの!? 「それはわたしがトラップを発動したから」 煙が徐々に晴れ、そのトラップが姿を現した。 「トラップカード、ディメンションウォール。このカードは、プレイヤーが戦闘ダメージを受けたときに発動するカード。その戦闘ダメージを相手に与えることができる。よってあなたに1000ダメージ!」 「くっ、そうくるなんて思ってもみなかったわ」 最初の攻撃で使ってこなかったのは戦闘ダメージが発生しなかったからなのね。モンスターを伏せてこなかったのも、確実にシャインエンジェルに攻撃させるため、か。 ホント強いわね、こいつ。ライフ的には負けてるけど、朝倉の場はリバースカード1枚と未来融合だけ。次の朝倉のスタンバイフェイズにキマイラが出てくるけど・・・ レッドアイズの敵じゃないわね。それにこのカードがあればキマイラなんてちょちょいのちょいよ。しょうがないけど、このターンはもう何もできないかな。 「あたしはリバースカードを1枚セットしてターン終了!」 「いくわよ、私のターン。ドロー!スタンバイフェイズで有翼幻獣キマイラ(攻2100/守1800)を未来融合によって特殊召喚!」 残念だったわね、キマイラは破壊させてもらうわよ! 「今よ!リバースカードオープン!速攻魔法、サイクロン発動!」 相手ターンでも使える速攻魔法。サイクロンはその中でもかなり優秀で、フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊することができる。 未来融合は、未来融合自体が破壊されたら特殊召喚した融合モンスターも破壊する効果も持っていたはず。これで相手のフィールドはほぼがら空きね! 「もちろん破壊するカードは未来融合よ!」 グラフィック化された未来融合のカードに向かって一つの竜巻が迫る。これで朝倉ももうお終いよ! 「惜しかったわね!リバースカードオープン!カウンタートラップ、マジックジャマー!このカードは手札を1枚捨てることによって、相手の魔法カードの発動を無効化し、破壊することができるカード。よって、わたしは手札を1枚捨てて、サイクロンの発動を無効化するわ!よって、キマイラも健在よ。」 竜巻の進行方向に魔方陣が突如として現れ、竜巻を吸い込んでいった。 「ふ、ふんっ。でもあんたのフィールドにはキマイラしかないじゃない。だったら早めにあんた自身で負けを認めなさい!それで、このゲームを終わらせてみんなに会わせなさい!」 あたしがそう言ったとき、朝倉は、ふふふっ、とこれで何度目か分からない笑いをこぼしたの。その眼には狂気の色を浮かべて。 「そうね、このゲームを終わらせるのにはわたしも賛成だわ。でもね、負けるのはあなたよ」 何言ってるのよ、圧倒的に有利なのはあたしのほうじゃないの。 「見てれば分かるわよ。嫌でもね」 その時あたしはなんだかとっても嫌な感じがしたの。何度もそれが何かの間違いであるように願ったわ。でもね、嫌な予感ってのはなかなかはずれないもんなのよね。 「まずは速攻魔法、魔道書整理を発動。これによってわたしはデッキの上から3枚までのカードを見て、それを好きな順番で戻すことができる」 朝倉はデッキの上から3枚のカードをめくり、ふふん、と笑って順番を入れ替えた。何考えてるのかしら?まったく分からないわ。 「残念ね、涼宮さん。あなたの負けはもう規定事項みたい」 は?あんた何言ってるのよ? 「ふふっ。すぐに終わらせてあげるわ。わたしは、墓地に存在する、デーモンの召喚、暗黒界の軍神シルバ、バフォメット、シャインエンジェルの、3枚の闇の悪魔、1枚の光の天使をゲームから除外し、混沌の世界から破滅の使者を呼ぶわ!降臨せよ!天魔神ノーレラス(攻2400/守1500)!!!!!」 そう朝倉が言い放つと、あたしと朝倉の間に闇が集まり、ゲートを作り出した。そのゲートの中心部から一筋の光が放たれ、その中から暗黒の巨体に闇の翼を生やし、髑髏の仮面をつけた、邪悪な魔人が現れた。なんなのよ、コイツは・・・ 「お、大口たたいた割には、出てきた奴はレッドアイズと同じ攻撃力のモンスターじゃない。あんた、まだ本当に勝つつもりなの?」 確かにレッドアイズと同士討ちされて、キマイラでヂェミナイを攻撃されたら痛いわね・・・でもあたしの手札には聖なるバリア-ミラーフォース-があるのよ。次のターンで相手モンスター全滅よ!この状況であたしが負けるわけないじゃない。 「あら、何を勘違いしてるの?わたしはノーレラスでは攻撃しないわ」 じゃあ何のために出したっていうのよ? 「もちろん効果のために決まってるじゃない。あなたを敗北の道に突き落とすための効果をね」 あんた、一体なにを考えてるのよ? 「見せてあげるわ!ノーレラスの効果発動!プレイヤーはライフを1000払うことによって、お互いのフィールド、手札を全て破壊し、墓地に送る!その後、お互いはカードを1枚引く」 ええ!?あたしのミラーフォースが!レッドアイズが!なんてことなの!フィールドと手札がリセットされちゃったじゃない!こんなのって反則よ! で・・・でも何かしら?何か忘れているような気が・・・・ 「あながちそれも間違いじゃないわ」 その言葉であたしは朝倉のフィールドを見て、そして驚いた。 「なんで!?すべてのカードが破壊されたはずなのになんであんたのフィールドにモンスターがいるのよ!」 おかしいじゃない!まだカードだってドローしてないわよ? 「あなた、キマイラの効果、覚えているかしら?」 キマイラの効果・・・?確か・・・キマイラが破壊されたときに、墓地から幻獣王ガゼルかバフォメットを場に特殊召喚できる・・・・・っ!!! 「そうよ。ノーレラスによって破壊されたキマイラは効果を発動!わたしは幻獣王ガゼル(15攻00/守1200)を攻撃表示で特殊召喚!」 あたしには今手札も場もがら空き・・・次のターンまでもつの?! 「それよりも涼宮さん、わたしたちはまだドローしてないわよね?」 ええ、そうね。このドローで次のターンにつなげるしかないもの。 「それと、さっきわたしが使ったカードも覚えてる?」 何だったかしら?確か・・・魔道書整理・・・ってまさか!?今のために!? 「そうよ。全てはこのときのため。それじゃあゲームを終わらせましょうか。あなたの敗北でね。幻獣王ガゼルを生け贄に、偉大魔獣ガーゼット(攻0/守0)を召喚!」 攻守0ですって?そんなカードで何ができるっていうのよ? 「あら、あなたはこのカードの効果を知らないの?なら教えてあげる。このカードはね、このカードを召喚するのにつかった生け贄モンスターの攻撃力の2倍の数値を自分の攻撃力として得ることができるのよ」 そ・・・それじゃあ今、ガーゼットの攻撃力は・・・・・ 「3000、ね。ちょうどあなたのライフポイントと同じね」 あたしは絶望した。この攻撃を耐えることなんて不可能だから。そう・・・あたしの負け、なのね・・・ 「朝倉、あたしの負けよ。でも、ひとつだけお願い聞いてもらえないかしら?」 「いいわよ。どうせこの後消えちゃうんだもんね。わたしにできる範囲なら構わないわ」 よかった。それを聞いて安心したわ。 「じゃ、じゃあ・・・・・キョンに会わせてほしいの」 「あら、そんなことでいいの?いいわよ、会わせてあげる。でもしゃべっちゃ駄目よ?」 分かったわ。会えるだけでも十分よ。それを聞いて朝倉は満足したのか、ポケットからカードを1枚取り出し、なんかよくわからない言葉を早口でつぶやいた。そして、カードが一瞬光ったかと思うと、部室の空間の一角が歪み、そこからキョンが出てきた。 あれから数十分しか経ってないのに、すごく懐かしく感じる。でも、キョンは目を閉じていた。 「ちょっと!キョン、気失ってるじゃない!あんた、何やったのよ!」 朝倉は、大丈夫よ、と言うと、また謎の早口言葉を始めた。なんなのかしら、あの呪文は。 「お久しぶりね、キョン君」 しばらくして朝倉がそういうと、キョンが目を覚ました。 ああ、これでもう未練はないわ。いや、もうすこしこいつと話がしたかったな・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・ 「大丈夫か!?ハルヒ!?」 体が動かせない分、ありったけの声を張り上げる。頼む!無事でいてくれ! 「そんなに心配しなくてもすぐ起きるわ。何もしてないもの。だって彼女、まだ罰ゲームを受けてないからね」 「貴様!これ以上ハルヒを苦しめるな!なんなら俺が相手になってやるぞ!」 俺なりに一番迫力がありそうな眼で朝倉を睨み付ける。身体はエースキラーに捕まったウルトラ兄弟みたいな格好で動かせないがな。そこ、ダサいとか言うな。 「でもこの決闘は彼女も望んでしたこと。きつく言うようだけど、部外者のあなたには関係ないことよ。闘ってみたいっていう気持ちもあるけどね」 な、なら俺と・・・! 「あら、彼女が起きたみたいよ」 俺は、朝倉がそう言い終わるのよりも早くハルヒのほうを向いた。 「おいハルヒ!ここからさっさと逃げろ!逃げるんだっ!」 「・・・あんた、何勘違いしてるの?」 ハ・・・ハルヒ?その顔は冷静そのものだった。 「決闘ってのはね、そもそも古代ローマで、奴隷たちが自由を求めて命を懸けて闘ったのが始まりなのよ?それはあたしたち決闘者も同じ。あたしは負けた。命を懸けた決闘に。その闘いはあたしの望んでしたことだった」 その真剣な表情に俺は何も言い返せなかった。俺にこんな覚悟はできるだろうか。俺はハルヒみたいに何かに命を懸けられるだろうか。 「だからね。あんたには笑って見送って欲しいの」 ハルヒ・・・お前・・・ 「お話中悪いけど、そろそろいいかしら?もともとしゃべらないって約束だったんだし」 「ええ・・・そう、ね。もう時間ってわけか。」 ちょっと待ってくれ・・・頼む朝倉・・・待ってくれ! そんな俺の必死の願いも虚しく、朝倉はポケットから何も書かれていないカードを取り出した。 「それじゃ、さようなら。涼宮さん。罰ゲーム!!!魂の牢獄!!!」 そしてその口から無情な言葉が発せられた。ハルヒの体から光が抜け出し、カードに吸い込まれていく。全ての光がカードに吸い込まれる直前、あいつは言ったんだ。 「今までありがとね・・・キョン・・・」 静かに、そして悲しい微笑みを浮かべながら。 「ハルヒ!?ハルヒーーーーっ!!!!!!」 ドサッ。 ハルヒが床に倒れる。その瞬間、俺の体も動くようになっていた。その証拠に、その場に俺は泣き崩れていたんだ。 「くそおおおおぉぉおおおぉおおぉおぉ!!!!」 なんで!なんで俺じゃなかったんだ!なんで俺じゃいけなかったんだ! 「ひとつだけ、いい事を教えてあげる」 なんだ・・・? 「涼宮さんがわたしの闇のゲームを受けたのはね?あなたたちのためだったのよ?」 ・・・・・それはどういう意味だ? 「わたしは、あのディスクが起動したとき、対象を全ての能力を封じ、かつ意識を失わせた上で空間閉鎖された亜空間に閉じ込めるようにしたの。あ、いい忘れたけど亜空間っていうのはこのカードね」 そういって朝倉はみんなが描かれたカードを見せてきた。 「もちろん、対象と言うのはあなたたちのこと。」 それじゃあハルヒは・・・ 「あなたたちを助けるためにわたしの決闘を挑んだのよ」 体中に電撃が走ったみたいだった。悔やんでも悔やみきれないとはこのことだろう。そう。この事件は俺が引き起こしたも同然、いや、俺が引き金となって起こったものだったのだ。そのために古泉が。長門が。朝比奈さんが。そしてハルヒが。 それと同時に俺は分かったんだよ。俺が命を懸けれる、懸けなければならないものってのがな。 「・・・・・朝倉」 「なにかしら?」 「俺はお前に闇のゲームを申し込む」 あいつらのためなら、あいつらとの毎日を取り返すためなら、この命、微塵も惜しくはない。 「そうね。いいわよ」 ならば話が早い。いまここで・・・ 「でも条件があるわ」 条件だと?さっさと言え。 「それはあなたがわたしのところに辿り着く事」 はぁ?お前はなにを言っているんだ?全く話がつかめんぞ。ちゃんと言え。 「んん、もう。キョン君が突っ込むのが早いんじゃない。ちゃんと聞いてよね」 ああ。分かった。 「これからあなたにはある島に行ってもらって、その島にあるお城を目指してもらうわ。でもここからが重要。お城に入るには4つの証が必要なの。その4つを持っているのは4人のプレイヤーキラー。1人1つ持ってるから全員倒してもらうわ」 簡単に言うと、全員倒さなきゃお前とは闘えんということか。 「うん。そういうこと。言い忘れてたけど、あなたのライフと命は繋がってるからね」 簡単に言うと、俺のライフが0になったら俺は死ぬってことか。 「うん。そういうこと」 ・・・負けるわけにはいかないな。あいつらのためにも、俺のためにも。 「分かった。それじゃ、俺を島へ送ってくれ」 構わん。俺は勝たなきゃならないからな。いや、勝つんだからな。 「ふふっ。そういうところ、嫌いじゃないわよ。ええ、分かったわ。始めましょうか。」 ・・・・・すぐに助けてやるからな。待ってろよ、ハルヒ、長門、古泉、朝比奈さん。 「「それじゃあいく「わよっ!」「ぞ!」」」 「「決闘!!!」」 そう口にした瞬間、俺は閃光に包まれ目を閉じた。 失ったもの、命を懸けられるもの、その「答え」を取り戻すため。 俺は長く険しい闘いのロードへと足を踏み出したんだ。 ~涼宮ハルヒの決闘王国2へ続く~ ※この作品は「涼宮ハルヒの決闘」を参考にさせていただいております。 このような場所で恐縮ですが、改めてお礼とお詫びを言わせていただきたく思います。 作者様、どうもありがとうございました。そして、許可なく参考にさせていただき、すみませんでした。
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…━━━━もうすぐクリスマスがやってくる…。 …街中が恋とプレゼントの話題で騒がしい。 ところで…「手編みのマフラーとかセーターとか…貰うと結構困るよね…」なんて言う輩を希に見掛ける昨今…… 実を言うと俺は、そういったプレゼントに僅かながらも、密かに憧れを抱いていたりするのだった━━━━━… 【凉宮ハルヒの編物@コーヒーふたつ】 吐息も凍る様な、寒空の朝… 俺は、相も変わらずいつもの公園でハルヒを待っていた。 つい先程まで、自転車を走らせる事により体温を気温と反比例させる事が出来ていた俺だが、公園に辿り着いてから暫くの間に指先は痺れる様な寒さを感じ始めていた。 (まったく…こんな日に限って待たせる…) 大体…ハルヒの奴はいつもそうだ。 来て欲しい時に来なくて、来て欲しくない時に限って現れる… 「まったく…俺に何か恨みでもあるのか…」 「ん?何か言ったかしら?」 「…………へ?……うおっ!?!」 気付かぬうちに側に居たハルヒに、俺は思わず驚きの声をあげる。 そして…その驚きの声を辛うじて挨拶に差し変えた。 「お…おおはよう!だな…」 「うん、おはよう。…何慌ててんのよ?…………まあ、良いわ。あのさ…これ、前のカゴに入れてって?」 「あ?ああ…」 ハルヒが差し出したのは、見覚えがあるデパートのロゴの入った紙製の手提げ袋だった。 その半開きになった口の中には、いくつかの青い毛糸と…編み針?…そして、編みかけの『何か』が見える…。 「ハルヒ?これ…」 「ああ、マフラー…もう少しで完成なのよ!だから、学校で仕上げちゃおうと思って…」 「ああ、そうか…」 気の無い返事をして見せたものの… 俺は今…… 猛烈に感動していたっ!! だって、そうだろ!? このハルヒに限って『手編み』など絶対に有り得ないと思っていたが、今まさに…その『手編み』のマフラーを制作中なのだ! しかも、この場合のプレゼントの相手は禍いなりにも『彼氏』であるこの俺だろう! この世に生を受けて十余年… 遂に俺の首に手編みのマフラーが巻かれようとしているっ! ところで…コレはクリスマスプレゼントなのか? だとしたら少し気が早い気もするが、セッカチなハルヒなら十分ありえる話だ…。 俺は逸る気持を押さえきれずに、自転車の後ろにハルヒを乗せると力一杯ペダルを踏み始めた。 「ち…ちょっとキョン!何、急いでんのよ?」 「ん?急いでなんかないさ!それより、いつもの販売機に寄るだろ…?」 「え?…まあ、寄るけど…」 「奢ってやるよ!」 「はあ?」 「だから、奢ってやるって!」 「…うん。…………(キョンが元気いっぱいだと、微妙な気分になるのは何故かしら)…」 「ん?何か言ったか?」 「べ…別に何も言ってないわよっ!」 やがて、いつもの販売機にハルヒを乗せて到着した俺は、自転車から降りる瞬間にハルヒに気付かれない様、そっとカゴの中の袋に目をやった。 先程の通りに半開きになった口から、編みかけのマフラーが見える。 俺は、思わずニヤケそうになるのを必死に堪えながら販売機に向かうと、コーヒーとカフェオレを買いカフェオレをハルヒに手渡した。 「ほら…飲めよ」 「あ、ありがと…」 「大変だったろ?」 「え?何がよ」 「編みモノ」 「…うん。まあね…」 「そうか…」 大変だったんだろうな……だが! だからこそ手編みは良いのだ! その『大変』な作業により編み込む想いの数々…これこそが手編みの醍醐味だ…! 俺はコーヒーを一気に飲み干すと、ハルヒを自転車に乗せ、再び全力でペダルを踏み始めた。 学校に着いて…授業が始まっても、俺の意識は黒板へと向く事は無かった。 (今、この時も…おそらくハルヒは俺の為に一生懸命にマフラーを編んでいる…) 考えただけで、顔の筋肉が弛緩む。 そして、振り返って様子を伺ってやりたくなる…が、今は止めておく。 楽しみは後回しにしたほうが喜びが大きいからな。 (さて、今のうちにマフラーを受け取った時に言う言葉でも考えておこうか…) 俺は、ハルヒがどんな顔をしてマフラーを俺に手渡すのか考えてみた。 そして…やっぱりハルヒの顔が少しだけ見たくなって、気付かれない様にそっと振り返えった。 伏し目がちに手元を見つめながら、忙しく編み針を動かすハルヒが見える… もうそれだけで俺は、胸の中にジンワリとこみあげて来るモノを感じていた。 様子から察するに、おそらく完成は放課後くらいだろうか…。 長い一日になりそうだ。 昼休みになっても、ハルヒの手は止まる事は無かった。 俺は何か労いの言葉でも…と考えながらも、(やっぱり、そういうのは後にとっておこう)と思い直して、ただ振り返ってハルヒを見つめるだけにする。 そんな俺の様子に気付いたハルヒが、手元と目線はそのままに俺に語りかけてきた。 「なあに、キョン…どうしたのよ…」 「えっ…ああ、いや…その…毛糸の色、良いな」 俺は上手い言葉が思い付かずに、適当に見つけた言葉を返した。 ハルヒは、そのまま話を続ける。 「そう。この毛糸を見付けた時ね?この色は絶対にアタシに似合うって思ったのよ。 丁度…良さそうなマフラーが売って無くて、がっかりしてた時だったから…すぐに自分で作る事を決めたわ!」 (何……と?) 「あら、キョン?どうしたの?固まっちゃって…」 「……………いや、何でも………無い」 …やっぱり…ハルヒはハルヒだった…。 俺は、今朝からの浮かれまくった自分を思いだし、激しく自己嫌悪に陥りながらも姿勢を元に正しながら冷静に考えてみる。 (そういえば、ハルヒの得意なセリフの一つに「無ければ自分で作ればいいのよっ!」ってのがあったな…) おそらく今回も…街へマフラーを買いに行ったものの、気に入ったものを見付けられずに結局自分で作る事を思い付いたんだろう。 (なんてことだ…まったく…俺ときたら…) やがて…授業が始まっても、俺の意識は黒板へと向く事は無かった。 今朝からの激しい期待感を失った事に因る倦怠感が全身を漂っている…。 ああ…長い一日になりそうだ…。 そして…放課後… 部室に行くと、既にそこには古泉と朝比奈さん…そして長門に…ハルヒも居た。 「あら…古泉君。素敵なマグカップですねぇ…」 朝比奈さんが、古泉の持ってきたと思われるマグカップを、何やら羨ましげに眺めている。 そして、毎度お馴染のニヤケ面で古泉がそれに応えている…。 (ふん、たいしたマグカップじゃ無いじゃないか…) 俺は意味もなく腹立たしくなり、二人の前を軽く挨拶をしてすり抜けると、ストーブの近くの椅子に腰を下ろした。 ハルヒは教室より引き続き、忙しく編み物に興じている。 そして俺の存在に気付くと、先程と同じく手元と視線はそのままに「見てなさい?もう少しで完成するわよっ」と得意気な口調で話しかけてきた。 俺は「ああ…そうか」とそっけない返事をしながら、ストーブに両手をかざす。 そんな俺とハルヒの様子に気が付いた古泉が、ハルヒの方に視線を送りながら「キョン君のですか?羨ましいですね?」とでも言わんばかりに俺に微笑みかけてきた。 俺は「違う違うっ」と手を鼻先で二三度振ると、古泉が「それは残念」と両掌を天井に向けるのを待って、ポケットから携帯を取り出して開いた。 とりあえず…授業中に来ていた分のメールを確認しようとディスプレイを見るが…なんだか面倒だ……そしてダルい…。 俺は何もしないまま、携帯を閉じると机に上体を伏せた。 ふと気が付くと、視界に本を読む長門が映る…。 (ああ…こいつは、こんなダルさとは生涯無縁なんだろうな…) やがて、俺は足元に当たるストーブの暖かな感触に眠気を覚え…そっと目を閉じた。 「…ョン…」 「ん…?」 「…キョン……」 「なん…だ…?」 「起きなさいよっ!バカキョンっ!」 ハルヒの怒鳴り声に慌てて体を起こすと、既に部室の中にはハルヒ以外に誰も居なくなっていた。 「あれ?みんなは…どうした?」 「とっくに帰ったわよ!……それより…ねえ、見て?遂に完成したわよ!素晴らしい出来栄えだと思わない?」 「ああ…まあな…」 「いっその事…もういくつか作って、アタシのブランドでも立ち上げてネットで売り捌いてやろうかしらっ?」 ハルヒは、出来上がったばかりのマフラーを俺に見せながら満面の笑みを浮かべていた。 (手編みは貰い損ねちまったが…まあ、いいか…) 俺は「良かったな」とハルヒに軽く微笑みかけると、立ち上がって帰り支度を始めた。 ハルヒは既に支度を終らせていた様子で、コートをはおり手袋も着けている。 そして…俺がコートを着終わるのを見計らって、出来上がったばかりのマフラーを首に巻き始めた。 (確かに…ハルヒに似合う色だ………あれっ?) ハルヒがマフラーを首に巻き始めたその時…俺は、ある事に気が着いた。 ハルヒの作り出したマフラーは………恐ろしく長い…! 戸惑う俺をよそに、ハルヒは手早くマフラーを巻くと、俺に余った長い部分を差し出した。 「…はい、キョン」 「ん?な、なんだっ?」 「アンタの分よ……」 そう言いながら、ハルヒの顔がみるみるうちに赤くなってゆく…… そして…とりあえず言う通りに、余った分を首に巻いた俺を見て「ふふっ、暖かい?」と照れた様に笑った。 「暖かいが……物凄く恥ずかしい……」 「ええっ?何よ!この場合『恥ずかしい』じゃなくて『嬉しい』じゃないのっ?」 俺達は暗くなり始めた部室棟の廊下を、二人三脚の様にぎこちなく歩く…。 しかし…全くハルヒの奴ときたら、とんでもない事を思い付くものだ。 こんなところを誰かに見られたらと思うと、恥ずかしくてしょうがない……… ただ…マフラーからハルヒの匂いがして、少し幸せだったりするが… 「こらっ!もっと嬉しそうにしなさいよっ!…えいっ!」 「ぐあっ!ひ…引っ張るなっ、首が締まるっ!」 「あははっ!面白~いっ!…えいっ!」 「ぐあっ!し…洒落にならん…」 「…えいっ!」 「グァ……」 「…いっ!」 「…ァ」 「……」 「…」 「」 「なあ、ハルヒ…」 「なあに?」 「ありがとう…な」 おしまい
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朝倉「あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る」 冗談はやめろ! 朝倉「ビックリした? ふふふ・・・。 正確には死んだフリをしてもらうの」 そういうことか、おもしろそうだな。 わかった。協力しよう。 朝倉「じゃあ、本当に痛そうなフリをしてね」 …ぐあっ あぐっ ぅぅう・・・ガクッ (自分で言うのもなんだが、迫真の演技だな。) 長門「あなたは私が !!!! ・・・(間に合わなかった・・・・!!? そんな)」 ハルヒ「 ! ちょっ、キョン!!? なんでよ!?」 朝比奈「どうしたのでs・・・ キョン君!? キョン君!!」 朝倉「ふふっ。 私はキョン君のことが欲しかった。 でも手に入らなかったの。 ・・・でも、どうしても欲しかったの。 こうすればずっと私のものでしょ?」 一瞬空気が凍りついたように思われた。 三人のが逆立ったような気がした。 長門「 ・・・ターミネートモード。 敵は取るわ。キョン、大好き。」 ハルヒ「・・・・許さないわ。キョン・・・。 もっと素直に好きって言えたら・・・。」 朝比奈「キョン君・・。 好きだったのに・・・。 朝倉ァ! うぬは覚悟出来ているんじゃろうなァ!! ワシも昔はゴンタ者じゃったけえ、 加減はせんばい!」 朝倉「・・・ これはあげない。」 ちょ、これはどういった展開なんだ!!!! 嬉しいけど・・・これじゃあまずぃ って耳たぶをかむな朝倉!!!! ビクッ ブルブル ・・・くやしい 長門ハルヒ朝比奈「 !! ・・・キョン!!! 騙したのかァ!!!」 朝倉「好きってのは 本当よ。 奪って見せなさいよ」 って朝倉までやめろおおおおおぉお ストップ、ストップーーーーー!! 谷口「WAWAWA忘れ物~ ひぃ、 これは な、なんなんですかぁ・・・ 何で私、ここにいるのですか・・ なんでこんなに修羅場なんですか・・・ し、失礼します!!!」 たにぃぃぃぐちいぃぃぃ 俺を見捨てないでくれ!!! 「さあ、誰にするの?」 冗談じゃない、 いや、ゆるして・・・。 おわり
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第三章 7月7日…とうとうこの日が来てしまった。 俺は何の対策も考えていない。 何かいい考えは無いかと考えている間に午前の授業が終わった。 昼飯は一年の時と同様谷口や国木田と食べている。 卵焼きを突いていた谷口がこんなことを言い出した。 「涼宮って去年の7月7日おかしくなかったか?俺学校の帰り道で東中の前通るんだけどさ、 俺去年の七夕の日学校が終わってゲーセンによってから帰ったんだ。たしか8時ごろ、 東中の前を通ったら涼宮が校庭でずっと立ってたんだ、しかも雨が降ってたのに傘もささずに。あれなんか意味あるのか?あいつのやることはやっぱよくわからん。」 「ふ~ん、そうか」俺は平然を装った。なんとなく動揺しているのを見られるのはまずい気がした。 心の中では適当に済ませばいいなんて考えていた俺をもう一人の俺が殴っていた。俗に言う心の中の天使と悪魔と言うやつである。 そして悪魔のほうが天使にぶっ飛ばされたわけだが、天使が勝ったところでどうにかなるわけでもなく俺は途方に暮れていた。 午後の授業もあっという間に過ぎ、とうとう部活の時間だ、今日だけはあいつと顔を合わせたくないのだが行かないほうがめんどくさいことになる気がするので文芸部室へと足を運んだ。 すると足取りが重かったせいか俺が部室に着く時には全員がそろっていてハルヒが嫌な笑みを浮かべた。 この瞬間俺は背筋が凍りつくような寒気を感じた。 このときの俺はこれから何が起こるかなんて知るよしも無かった。 ハルヒは全員がそろったと言うことでこう言った。 「今日は七夕で不思議も油断しているかもしれないわ!今日はこれから久しぶりに市内探索しましょ!!」 なんだって?最近驚いてばかりってのに驚きだ。市内探索?今から? 実は今までに5回市内探索が行われたのだが、結局一度もハルヒとなることは無かった。 そしてハルヒは例のごとくどこにしまっていたのか爪楊枝を取り出し例のごとく俺たちは爪楊枝を引いた、 そして驚いたなんと俺とハルヒがペアになっていたのである。 その瞬間明らかに長門、古泉両名の顔が明らかにゆがんだ。 ハルヒは言った。「何であんたとペアなのよ。まあいいわ、足手まといにならないようにしなさいよ!」いかにもハルヒらしい発言が聞けて俺は安心した。 「わかってるよ。」そう言い返しておいた。俺はなんかうれしいかった、それが何故かはわからないが。 そして夕方5時過ぎに俺とハルヒは学校を出た、そして行くあてはあるのかと聞いてみたするとハルヒは当然のように「東中。」 俺はそうか何しに行くんだ?とわざと聞いてみた。 するとちょっと怒ったように「あんた昨日の話聞いてたの?あたしは人を探しているのよ!」と答えるハルヒ。 俺は何故か行ったらまずい様な気がした、しかし断る理由も無く、思いつきもしなかったため「冗談だ、なら急ごう」そう言ってハルヒの前を歩いた。 北校から中学まで30分ほどで着いた。着いたはいいがまだ部活やら補修やらで残っている生徒がいるようだこれでは中に入れない。 「どうする?ハルヒ。」と聞いてみる。 「そうね、今入るのはまずいわねどこかで時間を潰しましょう。近くにちょうどいい公園があるわ、そこに行きましょう。」 あの変わり者のメッカか…こいつも好きらしいな断る理由も無い。 「わかった。」と答えた。 公園に着くと二人でベンチに座った。傍から見れば完全にカップルだ。 お似合いに見えるかは置いといてだな。 「だいだい8時ぐらいまでは待ってなきゃだめだろうな。」と俺。 「そうね、後2時間ぐらいね」とハルヒ。 「なんか話しでもするか。」 そして俺たちはしゃべり続けた。 新しいクラスがつまらないこと、朝比奈さんのコスプレ衣装の希望、これからのSOS団の活動内容について、新しい担任がむかつく事 そしてあっという間に2時間が過ぎた。 ハルヒが時計を確認し「そろそろ時間よ、行きましょう」そして後についていく俺。 学校に着くとさすがに真っ暗で携帯のライトで周りを照らした。 そしてこの後俺は信じられない光景を目の当たりにする ハルヒがライトを向け俺の名前を呼ぼうとしたときだ。 「キョ… 涼宮ハルヒがいきなり倒れたのだ、俺は焦った。 こんなに焦ったのはハルヒが消失しちまったとき以来だ。 焦りながらも俺は古泉に電話を掛けた、後から考えればナイスな判断だったと思う。 「古泉!!ハルヒが倒れた!!!!」 「どうしました落ち着いて下さい。」 「北校でハルヒが倒れたんだよ!!」 「わかりました15分…いや10分で向かわせます。」 「わかった。早くしてくれ」 こんな感じだったと思う、あまり覚えていない。 たぶん10分ぐらいで救急車が着たんだろうが俺には3倍ぐらい長く思えた。 そして機関御用達の病院にハルヒは検査入院ということで入院した 第四章
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「ねぇキョン?」「ちょっと!聞いてるの?キョン!?」「それでねキョンはね、」「あっ!そうそう、キョンそれからね」「キョンっ!」「そう言えばキョンは…」「キョン明日はね…」「ねぇキョンは?」「ほらキョン!ちゃんと聞きなさい!」 ……まったく飯の時とか2人でテレビ見てる時位は静かにして欲しいな。 孤島の1件からハルヒと付き合う事になってしばらく経つ、授業中も、部活の時も、その後も、休日も、寝る前でさえ電話で、そう…ほぼ丸一日中俺と一緒にいるのに、なんでこいつは話題が尽きないのかね? まるでマシンガンやアサルトライフル…いやガトリングガンやバルカン砲だな…いや弾切れがある分羅列した銃器の方がましだな。こいつの話題は切れないしな。 「なぁハルヒ…何でお前はそんなに話題が尽きないんだ?こんなにずっと一緒に居るのによ。」 「ったく…たまに自分から口を開いたと思ったら…何よそれは?良い?あたし達はNTじゃないから、黙っていても分かり合えないのよ?」 ……そう言えばこの前一緒に某ロボットアニメを見たな… 「それにあたし達は恋人どうしなのよ!?お互いが一番に分かり合ってなきゃだめなの?それ位はアホキョンにでも分かるでしょ?だから、こうやって毎日毎日あたしが話してるのよ!」 なるほどな…でも俺もっと簡単に分かり合える方法知ってるぜ? 俺は無言でハルヒを抱き締めた。 「ちょっと…キョン!?」 ハルヒのヤツは、顔真っ赤にして抗議しながらも、俺に体を預けて大人しく抱き締められている。ったく…こうしてりゃ静かなんだけどな。 「……分かったわよ…じゃあこれからは、いつでも分かり合える様にこうして抱き締めなさい…良いわね……」 真っ赤にしてゴニョゴニョ言うハルヒは可愛いが……墓穴ほったなこりゃ… 終わり
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ハルヒ×SILENT HILL×F.E.A.R.×many other ※クロスオーバー、グロ、ホラー、オリキャラに該当します。 ※前作「涼宮ハルヒの静寂」との関連はありません。 注意 F.E.A.R.について 海外製FPSのタイトルです。 TRPGとは一切関係ありませんのでご了承ください。 畏怖・涼宮ハルヒの静寂 (二訂版) 第1周期 第2周期 第3周期 第4周期 第5周期 第6周期 周期数不明 畏怖・涼宮ハルヒの静寂2 phoeniXXX 第1周期 第2周期 第3周期 第4周期 周期数不明 Brack Jenosider DistorteD-Answers_畏怖・涼宮ハルヒの静寂0 第1周期 第2周期 アーカイブ
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ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その6から 真夜中にはまだ間がある時間にコテージを飛び出し、結局、空の一角が明るくなるまで、ハルヒと俺は、東を向いて歩いた。 俺には自分たちがどこに向かっているのか、それにどれだけ進んだのかさえ、見当もつかなかったが、俺の手を引くハルヒの手は、大丈夫こっちで間違いない、とずっと言い張っていた。 あとで知ったことだが、俺たちが歩いていたのは、この島の一番長い道だった。 元はレールが敷いてあったらしい砂利道で、今はなくなった鉄道は、最初の夜に食事をした繁華街の外れにあるセントラル・ステーションを発着駅にしていたそうだ。 「キョン、お腹がすいたわ。しかも小腹ってレベルじゃなくて」 「俺も腹ぺこだ、ハルヒ。ここで『だから、おまえの太ももをよこせ』といえないのが全年齢対応のつらいところだ」 「言えたら、それはそれで、別の意味でつらいことになりそうね」 「ぐあ!!」 「……」 「……ハルヒ。おまえの蹴りで意識と体力の残量をほとんど失ったが、自分を取り戻した」 「よかったわね。さあ、あんたにあげたパスポート・ケースを出しなさい」 「ここでか? ん……ほら」 「……なんで、そんなところから出てくるのよ?」 「最初は首から下げてたんだが、そうもできない時と場合があるだろ。首から下げるのはいいアイデアだと思うが、未成年とか枯れた夫婦向けだと思うぞ」 「あたしたち、未成年なんだけど」 「……」 「はやく正気に戻りなさい。それと、とにかくケースを出して」 「ああ」 「中を見て」 「俺のパスポートが入ってる。そっちは?」 「はい、これがあたしのパスポート。それから、布製ケースを裏返すと、お約束だけどもうひとつポケットがあって」 「クレジットカード……と、そっちは?」 「国際テレフォンカード。まあ、クレジットでかけられる公衆電話もあるけどね。はい、あんたの分も出して」 「といっても入れた覚えがないものを……あれ?」 「あんたが寝てるうちに入れといたわよ。テレフォンカードはあたしのだけど、クレジット・カードはあんたのを。……うっとうしいから、子犬のような濡れた目でこっちを見ない。とにかく、何か食べに行くわよ.その後は、どこかで少し眠らないとね」 「おはよ、お父さん」 「おはよう、母さん」 「部屋の入り口に立って、何をしているの?」 「部屋の扉の気持ちになって、人生の意味を考え直してた」 「顔を洗いに行きたいわ」 「どうぞ、通ってくれ。自動ドアなんだ。『オープン・セサミ(ひらけゴマ)』と言ってくれさえすればいい」 「オープン・セサミ」 「ウイ・マダム」 「できれば、木製の扉に戻って来てもらえないかしら?」 「話してみる。だが難しいと思う。多分、話をするのも難しい」 「反省してる?」 「反省している」 「ひさしぶりに、お父さんの朝食が食べたいわ」 「ウイ・マダム」 「それを食べたら、あの子たちを迎えに行きましょう」 「母さん。できればケンカ両成敗という言葉も、思いだしてもらえるとありがたい」 「親子ケンカにも適用できるのかしら?」 「あとで調べてみる」 「じゃあ、それぞれ、やるべきことにとりかかりましょう。……今日もすばらしい一日になりそうね。そう思わない?」 「うがらがえしゃえがが!」 「ハルヒ、食べるのか、しゃべるのか、どっちかにしろよ」 「……んぐ。これ、おいしいわね、キョン!」 「ハルヒ、食べるのに、しばらく専念して良いぞ」 「そうする」 街に入ると、開いている店は少なかったが、通りには屋台がけっこう出ていた。 いつかとおなじように「目に入った最初の店」に入ることを事前に決めていたので、どの屋台で食べるかはすぐに決まったが、メニューが「山賊」と「海賊」しかないので少し焦った。 ハルヒは迷うことなく「海賊」(定食なのだろうか?)を選び、俺はなんとなく「山賊」(ランチというには時間が早い)を選んだ。 ハルヒは一瞬、気に食わない、という目になったが、「パイロットと副パイロットは違うものを食うんだ」と説明したら納得して機嫌をなおした。 「らがえしゃえうががが!」 「ハルヒ、食べるのか、しゃべるのか、どっちかにしろよ」 「……んぐ。さっき言い忘れたけど、当然副パイロットはあんたの方だからね、キョン!」 「わかってる。ほら食え」 「そうする」 出てきたものは、どちらが「海賊」か「山賊」か、もう一度出てきても当てられなさそうなくらい、同じくらい濃い味のついた、とんでもない量のふたつの炒めものだった。 途中で、ハルヒの例の悪い癖が出て、俺の分を横取りして食べだしたので、おれもハルヒの分を食べた。 それでも正直どちらが「海賊」で「山賊」なのか、区別がつかなかったが 「きらがへえしゃうがが!」 「ハルヒ、食べるのか、しゃべるのか、どっちかにしろよ」 「……んぐ。何いってんのよ!両方とも全然違うわよ。目をつぶっても区別がつくわ」 「じゃ、どっちの方がうまいんだ?」 「なかなかいい勝負ね」 「……俺の分も食っていぞ」 「言われなくてもそうするわ」 「ああ、よく食べたわね。眠くなったわ。ほら、キョン」 「なんだよ」 「眠るから、膝を貸しなさい」 「なぜ?」 俺も眠いから、宿とか探したほうがよくないか。 「雑用係の膝は、団長の枕となるために作られたのよ」 誰にとってだ?神か?それともお母さんか? しかし、言うが早いか、ハルヒはいきなりその頭で、おれの膝と太股を占拠する。 「これよ、これ。さすがSOS団クオリティね」 「よくわからん」 「じゃあ、おやすみ」 「ちょっとまて。せめて屋台の椅子はやめたらどうだ?」 「なによ、あたしたちは客よ。客が屋台で寝てどこが悪いのよ!」 客のつもり満々だが、理屈はヤクザ以下である。 「じゃ、おやすみ」 「おーい!」 困っていると、店主が「タイヘンネ。コレ、ワタシノオゴリ」という顔をして、頼んでないホット・コーヒーを持ってきた。 ひょっとすると、俺はいま壮絶な勘違いをしているのかもしれないが、南の島の人たちは人情に厚い。親切だ。いい奴らだ。そうでも思わないと、おれまでテーブルにつっ伏して寝てしまった言い訳が立たない。 「かあさん、ネットカフェに寄って何を見てたんだ?」 「ん? ちょっとブログに旅の記録と、あとクレジット・カードの使用照会をね」 「クレジット?」 「あの子たち、お財布を置いて行ってたでしょ」 「どこで使ったかまで、分かるのか?」 「きちんとしたシステムを使っているところなら、大まかには、ね。まあ、そんなお店も、キャッシュ・ディスペンサーも、この島だと、この街にしかないけれど」 「この先、絞り込むのがめんどくさい、もとい、やっかいだな」 「ハルは携帯もってるから、電話して聞いてもいいわ」 「……電源を切ってるみたいだ」 「あとは水を引っ掛けられるか、海に飛びこめば、お父さんの携帯に緊急信号が入ることになってるの」 「すごいサービスだな」 「もともとは、迷子とか徘徊老人用に開発されたそうだけど」 「そこまで知ってりゃ、捨てて逃げないか?」 「それはないわ」 「どうして?」 「モノと思い出を大切にする子だもの」 「親父も大切にして欲しいよ」 「子供もそう思っているのよ」 「わかったよ。反省している。……なんか、俺、こればっかりだな」 「たまにはそういうのも素敵よ」 「『親父のくせに生意気よ』なんて言われてる親父なんて、おれくらいだぞ、きっと」 「親父の星ね」 「黒星だ」 「キョン、いいかげん起きなさい!」 耳元でがんがん響く声。つづいて布団(?)がはぎとられる。 「それだけは!それだけは!」 「あんたはどこの多重債務者よ?」 目が覚めた。 しかし、いま俺がつっ伏しているのは、あの屋台の油っぽいテーブルではない。 冷たい床に投げ出されたハルヒの足だ。 「……ここ、どこだ?」 「あたしの膝の上」 「じゃあ、そのおまえがいるのは?」 「知り合いの家ね。正確には船だけど」 「おまえ、ここに知り合いなんているのか?」 「昔、来た時のね。お互い子供だったわ」 「今だって未成年だ」 「根に持ってるの?」 「いいや」 まさか。 「ああ、忘れてたわ。あんたのこと、しつこく聞かれたから、『日本人のお金持ち』ってことにしてあるの。そのつもりで振舞いなさい」 「なんだと?」 身代金の支払いになんて応じてくれないと思うぞ、うちの家。 「金持ちがなんで手ぶらで、知らない奴の船だか家で、膝枕で寝てるんだ?」 実際に1銭も持ってないぞ。 「財布を落としたことにしてあるわよ」 と言うハルヒ。 「お金持ちだって、時には金のない時もあるわ」 「説明なら、『団長と雑用係』でいいだろ?」 「現地の言葉、そんなに知らないの」ハルヒは横を向いてアヒル口になる。 「団長はともかく、雑用係なんて」 「英語ならオール・アット・ワークでいいみたいだぞ」 「あんたがなんでそんなこと、知ってるのよ?」 「雑用係についての、おれなりの誇りだ。プライドといってもいい」 ほんとは、某著名本格メイドまんがで読んだトリビアだが。 ハルヒは一瞬、こいつ突然何を言いだすんだ、という顔になったが、すぐにそれをおし殺して、 「ま、まあ、あんたにしちゃ立派な心がけだわ。もちろん団長と比べたら、足元にも及ばないけど」 と早口でまくしたてた。 「そんなことはわかってる。だから説明しなおしてこい」 「あーもう、そういう訳にはいかないの! あたしの演技に合わせなさい。ほら」 ハルヒは、ぽんと自分の太股をたたく。 「な、なんだよ?」 「膝枕のつづきよ」 「起きたから、そういうのはいい」 「そういう訳にはいかないの!」 「どうして?」 「日本のお金持ちは、膝枕が好きだという設定よ」 そりゃどこのバカ殿だ? ハルヒと、あーだこーだをやってると、ひょっこりと部屋の入り口から小さな女の子が顔を出した。 ハルヒと俺の顔をかわるがわる見ている。 「あの子がお前の知り合いか」 「前に来たときは、あの子はまだ生まれてなかったと思うわ。知り合いは、あの子の姉さんよ」 試しにその女の子に笑いかけてみたら、彼女はいきなり火がついたように泣き出し、逃げていった。 「ハルヒ、いま俺、どんな顔してる?」 「まぬけ面」 「子供には般若の面に見えたのか?」 「あんた、自分は子供に好かれるとか思ってたんでしょ?」 「……悪いか?」 「随分とへこんだようね」 ハルヒは、ぽんと自分の太股をたたく。 「ほら」 「な、なんだよ?」 「言っとくけどね、あたしは意地の張り合いでも、あんたに譲る気はまったくないわ」 「ああ」わかってるさ、そんなことは。「だが、向こう向くぞ」 「上等よ」 俺はしぶしぶハルヒの膝の上に頭を置いた。ハルヒには背中を向けてだ。 「……これでいいか?」 「それでいいわ」 「……何にも言わないのか」 「何か言って欲しいの?」 「いらん」 「……子供に笑いかける大人が善人じゃない世界もあるわ。大人に笑いかける子供の方もね。そういう場所で生きている人たちもいるの。あ、言っとくけど、これはあたしの独り言だからね」 「……」 「この近くに、外国人観光客が多い海水浴場があって、今日みたいに晴れた日は、そこに行くとあの子の姉妹に会えるわ。手口はこうよ。姉妹のうち、一番泳ぎのうまい娘が、溺れてみせる。砂浜では、彼女の妹たちが、大人たちの手を引っ張って、助けてくれと頼むの。大人たちが飛びこんでいくと、その騒ぎのあいだに、もう少し離れたところにいた別の姉妹が、放ってある荷物を持っていくというわけ」 「……」 「前にこの島に来た時にね、『溺れてる』彼女を助けたことがあるの。あの親父に母さんだから、盗られたものはなかったけどね。それどころじゃ、娘のあたしが飛びこんでるのに平気で談笑してた、って彼女たちからは、ボロクソに言われたらしいわ」 「ボロクソって」 「しかも親父が乗っちゃって、『やかましい!俺が300ドルで買った娘だ。生かすも殺すも俺の勝手だ』とやったもんだから、あたしは騙されたあの子たちにまで同情されて、帰る日まで『客人』扱い、迷惑もいいところよ。最後の日にみんなに手を握られて『お金ためたら、あの悪魔から買い戻してあげる』だって」 ハルヒは話しているうちに、その時の感情がよみがえったような顔をした。 「街で寝てるあんたと一緒にいたら、彼女たちに再会したの。何言われてたと思う? 『この若い男が、あたしを買い戻したのか?』って」 「ホテルにも泊まってないとすると、あの娘たちのところかしら?」 「ん?」 「お父さん、覚えてない? ハルが、溺れている女の子を助けたの」 「ああ、例の置き引き姉妹団な」 「だから、またこの島にしたんだと、思ってました」 「いや、正直忘れてた」 「お父さんって、愉快なことは一回で覚えるのに、そうじゃないことはおもしろいようにねじ曲げて覚えるから。いなかった人が出てきたり、誰も言ってない話が混ざってたり」 「しかも自分が言ったことは、たいてい覚えてないんだ」 「ハルは覚えてるわ」 「だろうな。だが水上生活してる連中は、ここらには多いし、いつも同じところに停泊してるとは限らん。こりゃちょっと骨だな」 「寝泊まりするところは違っても、お仕事の場所はかわらないわ。明日は、例の海水浴場に行ってみましょう」 「さすがだ、母さん」 「疲れてますね、お父さん」 「そうだな。それと、少し世をはかなんでる」 「そうなの?」 「ちょっぴりだけどな」 「ハルとお父さんは似てるわ。だから折り合わないのかしら?」 「あいつにも守りたいものが一つや二つあるだろう。俺の方には二つか三つある。だが、この違いがわかった時に、あいつの隣にいるのは俺たちじゃない」 「そうね」 「その時が来たら、あのバカ娘も、せいぜい焦って悔やめばいいさ。その時は、遠くから笑ってやる」 「じゃあ今は?」 「間近で笑ってやる。これもそう何時までもできることじゃないけどな」 「……明日はあの子たちに追いつきましょうね」 「ああ」 「私も本気を出します」 「だったら鬼に金棒だ」 「どっちが鬼なんです?」 「金棒じゃない方だな」 夕方になると船の家には、海水浴場から引き上げてきた姉妹たちが帰って来た。 彼女たちはハルヒを取り囲み、一斉に笑ったり話しかけたりしていた。 現地の言葉は俺にはさっぱりわからないが、ところどころでハルヒという言葉が聞こえた。 ハルヒは笑ったり驚いて見せたりしながら、しばらく思い出話に付き合ったが、早々に「今日は帰る」と切り出した。 姉妹たちは、一斉に俺の方を見た。ものすごい目つきで。 「悪かったわね」 ばつが悪そうにハルヒは言った。 「なんだ?」 「さっきの。あそこを出てくる時、すごく睨まれてたでしょ。あんたを悪者にしたみたいね」 「気にするな」 どうせ今日の俺は般若か鬼だ。 「親のところに帰る、と言ったら、よけいに揉めたんだろ?」 なにしろ親父さんは「あの悪魔」だからな。 「多分ね」 ハルヒは追い越すようにして、俺の腕をとった。 「それより、今日はどこに泊まるの?」 「クレジットが使えるところなら、どこでもいい」俺はあわてて付け加えた。 「屋台は駄目だぞ」 「当たり前でしょ。最後の夜よ」 「もう一泊あるだろ?」 「それは『家族旅行』の話でしょ?」 「そうだな、明日は合流しよう。安心しろ、一緒に謝ってやる」 「あんた、その態度は良くないわよ。あくまで共犯なんだからね」 「親父さん、あの後、絶対に寝室のドア壊したぞ」 「母さんにこっぴどくやられてるわ。モノを大切にしない人、嫌うから」 「それはそれで、かわいそうだな」 「あんた、いま誰と一緒に居るのか、それを考えなさいよね」 「正直に言うが、それしか考えてないぞ」 「う。それもちょっと嫌かも」 その8へつづく
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さて、静かな時間が進んだのは、翌日の朝までだ。どうやら嵐の前の静けさって奴だったらしい。 日が昇るぐらいの時刻、前線基地の北1キロの辺りを警戒中だった小隊が数十両に上る車両に乗った敵が 南下してきていたのを発見したのだ。ハルヒと一緒にいた俺は小隊を引き連れて迎撃に向かったのだが…… 「おいドク――じゃなくて衛生兵! 負傷者だ来てくれ!」 俺は道の真ん中で鼻血を垂らしている生徒を抱えて叫ぶ。 だが、民家の路地で敵と撃ち合っていた彼には声は届かない。幸い、近くにいた別の生徒が俺の呼びかけに気がつき、 衛生兵の生徒をこっちによこさせる。 どこを撃たれたんだ!と叫ぶ彼に、俺は、 「足だ! それでもつれた拍子に頭から転んだ! 意識もなさそうだ!」 彼はわかったと言い、処置を始めようとするが、なにぶん道のど真ん中だ。そんなことを敵が許してくれるわけがない。 近くの民家の二階からシェルエット野郎がひょっこり姿を現すと、俺たちめがけて乱射を始める。 足下のアスファルトに数発が命中して道路の破片が飛び散り、俺の身体に振りかかった。 「邪魔すんな!」 俺はそいつめがけて撃ち返すと、あっさりと民家の中に引っ込んでしまう。 北山公園じゃ乱射して絶対に隠れたりしなかったくせに、ここに来てチョコマカと動くんじゃねえよ。 何はともあれ今の内に俺たちは負傷者を抱えて道路脇まで運ぶ。しかし、ここでも悠長に治療なんてやっていたら、 そこら中から銃撃を加えられるだろう。何せ、俺たちの周りに立ち並ぶ民家のどこに敵が潜んでいるのかわからないのだ。 とにかく、学校に負傷した生徒を戻すしかない。 俺は無線を持った生徒を呼びつけ、 「おいハルヒ! 負傷者だ! 数人つけてそっちに送り返すから、学校へ運んでくれ!」 『わかった! でも、さっき負傷者を満載したトラックを学校に返したばかりだから、ちょっと時間がかかるわよ!』 身近にいた二人の生徒に負傷者を担ぐように指示し、ハルヒのいる前線基地へ走らせた。 仕方がない。それでもこんなところにおいておく訳にはいかないんだからな。 負傷者を送り出した後、今度は2軒先の民家の塀の上から銃撃を受けるが、国木田が見事な腕前でそいつに弾丸を命中させる。 今じゃ、俺の小隊じゃこいつが最強の位置にいるからな。頼りにしているぞ。 と、国木田が俺の方に振り返り、 「キョン。3人減ったから結構パワーが落ちるよ。どうする?」 ここは前線基地から数百メートル北に位置する、住宅の密集地帯だ。ここを通り抜けられるともう前線基地の目の前に出る。 敵の侵攻を事前に察知した俺たちは、この住宅地帯で防御線を築こうとしていたんだが、 敵の動きが昨日とはまるで違うために苦戦続きだ。突撃バカみたいだったのが嘘のようで、 あっちの路地陰から銃撃を受けたと思えば、民家の屋根から手榴弾を投げつけたりしやがる。 しかも、ちょっと攻撃したらとっとと民家の海の中に消えてしまうのだ。 浴びせられる銃弾の量は昨日よりも遙かに少ないが、これは精神的にかなりきつい。 おまけに民家から民家へ器用にすり抜けていっているらしく、ハルヒのいる前線基地へも攻撃が加えられている。 もはや俺の防御線の意味がなくなりつつあった。 俺は国木田の指摘に、しばらく頭の脳細胞の血流を加速させて、 「どのみち、ここで防御していても犠牲が増えるばかりだな。大体ハルヒの方も攻撃を受けているんじゃ、 ここにいる意味が全くない。防御線を下げてハルヒたちの方に戻るぞ」 「賛成。その方が良いと思うよ」 国木田もいつものマイペース口調で賛成する。 俺の小隊はじりじりと南側――前線基地へ移動させ始めるが、 「敵車両だよ!」 国木田の叫び声とともに、路地から一両の軽トラックが現れる。普段その辺りを走っているようなタイプだが、 後ろの荷台には12.7mm機関銃搭載という凶悪な代物だ。そこにシェルエット野郎が3人乗り、 一人が12.7mm機関銃の火を噴かせ、他の二人はそれを援護するようにAKを撃ちまくる。 「撃ち返せ!」 俺たちは一斉に民家の塀の陰に飛び込み、車両めがけて一斉に射撃を始めた。 12.7mmの銃弾が塀に直撃するたびに、コンクリートの破片が飛び散る。 こいつが人間の肌に直撃したらどうなるのか。怪我なんて言うレベルじゃねえぞ。もはや人体破裂といった方が良い。 もう3度それを目撃する羽目になったが、絶対に慣れることはないと断言する。 しばらく銃撃戦が続くが、一人の生徒が撃ちまくっていた5.56mm機関銃MINIMIが12,7mm機関銃を乱射していた シェルエットマンに直撃。一番の脅威が消滅したと言うことで、俺たちは前に出て残り二人も射殺した。 だが、肝心の軽トラックはとっとと逃げ出した。あれだけ銃弾を撃ち込んでぼろぼろだってのにまだ動けるとは。 さすがは日本製とでも言っておこう。 敵が去ったのを確認すると、俺たちはまた前線基地へ向けて移動を開始した。 ◇◇◇◇ 「キョン! こっちよこっち!」 前線基地前にたどり着くと、ハルヒが手を振っているのが目に入る。しかし、隣接している住宅地帯には すでに敵が潜んでいるらしく、うかつに飛び出せば狙い撃ちされかねない状態だ。 案の定、俺たちの真上に位置する民家の窓から敵が飛び出してきて―― 「やばい!」 てっきりいつものようにAKで銃撃してくるかと思いきや、シェルエット野郎の手にはRPG7が握られていた。 真上からあれを撃ち込まれれば、ひとたまりもない! 俺は無我夢中でM16を撃ちまくる。放った銃弾がどこかに当たったのか、発射寸前に手元が狂い 俺たちとはあさっての方向の民家の壁に直撃した。だが、やはりぶっ放した野郎はとっとと民家の中に引っ込んでしまう。 「キョン! 後ろから敵車両2! 近づいてくるよ!」 国木田の声で振り返ると、また武装軽トラックが背後から接近中だ。もちろん、12.7mm機関銃の銃口が向けられている。 ここからじゃ、狙い撃ちにされる! ――その瞬間、バタバタという轟音とともに、俺たちの頭上に一機のヘリコプターが出現した。 「ようやく来たか!」 俺の歓喜の声と同時に、UH-1からミニガンの攻撃が始まる。まず、俺たちに接近中だった車両2つが吹き飛び、 今度は住宅地帯の屋根に向かって撃ちまくった。俺たちの頭上を飛ぶたびに、ミニガンの薬莢が雨あられと降りかかり、 指先に当たったときは思わず「アチイ!」と叫んでしまう。 しばらく掃射が続いたが、やがてそれも収まり前線基地の上空あたりでホバリングを始める。 と、無線機を持った生徒から無線を渡された。古泉からの連絡らしい。 『やあ、どうも。敵は大体つぶしましたから、今の内に移動してください』 「恩に着るぜ。助かった」 古泉は今小隊の指揮官からはずれて、UH-1のパイロットなんてやっていたりする。何でも本人曰く、 (何の訓練も免許もなくヘリの操縦ができるんですよ? せっかくだから操縦してみたいと思いませんか?) と、いつものさわやか顔でUH-1に乗り込んだ。とはいっても、学校の校庭に置かれていたものは輸送用らしく、 武装が一切ついていなかったので、学校のどこからか持ってきたミニガンを両脇キャビンに装着してあり、 それをヘリに乗った生徒が撃ちまくっている。なんだかんだで器用な野郎だ。 まあ、今の状況を仕組んだ奴から頭の中にねじ込まれた知識だろうが。 しかし、あの学校は4次元ポケットか何かか? 昨日はカレーと米が出てきて長門カレーができたが、今度はミニガンかよ。 「よし、敵の攻撃が収まっている内に戻るぞ」 俺たちは一気に前線基地の建物内までに戻る。そこにハルヒが駆け寄ってきて、 「キョン、向こうの様子はどうだった?」 「ああ、すっかり民家に敵が入りこんじまっているな。あっちこっちで敵が飛び出してくるんで まるでモグラ叩きだ。キリがねぇ」 「こっちもさっきから同じ状態よ。正面の民家から敵が出ては引っ込んでの繰り返し。むっかつくわ! もっと潔く突撃してきなさいよ!」 「俺に言われても困る」 そんなやりとりをしている間に、またガガガガとAKの銃声音が鳴り響き始めた、 だが、てっきり前線基地に向けた銃撃と思いきや、こっちには一発も飛んできていない。 代わりに前線基地上空を旋回していたUH-1があわてたように高度を上げ始める。 どうやら、ヘリが攻撃を受けているようだ。 ハルヒは無線機を通信兵から受け取ると、 「古泉くん! 大丈夫!?」 『ええなんとか。あまり高度は下げない方が良いですね。ちょっと驚きました』 「無理しないで。有希の砲撃が使えない以上、古泉くんのヘリが頼みなんだから」 『わかりました』 言い忘れていたが、現在長門の砲撃は自粛中だ。敵車両部隊の南下を確認した時点で、 それを阻止すべくありったけの砲弾を南下ルートの道路に撃ち込んだんだが、 調子に乗ってやりすぎたため、砲弾の残りが見えつつあるようになってしまったからだ。 こいつに関してはハルヒの指示とはいえ、俺も砲弾が無限にあると勘違いしていたことを反省すべきだろう。 しかし、ミニガンとカレーが出てくるなら、砲弾も一時間ごとに2倍に分裂するとかサービスしてくれりゃいいのに。 と、古泉との通信を終えたハルヒが俺のヘルメットをぽかぽか叩きつつ、 「なにぼさっとしているのよ、キョン! 敵がどっかに隠れているんだから、怪しいものに向かってとにかく撃ちまくるのよ!」 「それをやったから砲弾が尽きかけているんだろうが!」 そんなことをしている間に、前線基地正面の民家の窓からまた影野郎が出現だ。 しかも、狭い窓から3人が身を乗り出し、全員RPG7を構えて一斉発射だ。 「RPG! 隠れて!」 ハルヒの声が飛ぶと同時に、俺たちは物陰に隠れる、一発は前線基地前の道路に、2発はそれぞれ建物の壁に直撃する。 「みんな無事!? 怪我はない!?」 ハルヒの確認の声に、建物内の生徒たちが一斉に返事をする。どうやら、けが人はいないようだ。 俺がほっと無でをなで下ろしていると、またもやハルヒからの鉄拳パンチがヘルメットを揺るがし、 「だーかーらー! ぼさっとしていないでさっき出てきた奴に反撃しなさいよ!」 「さっきの仲間にかける優しさの1割で良いから、俺にもかけてくれよ」 ひどい扱いだぞ、まったく。 とはいっても腐っている場合ではない。第2射を撃とうと、同じ窓から出てきた敵めがけて撃ちまくる。 何とか、一発ぐらい当たったらしくいつものように敵がはじけ飛んで消滅した。主を失ったRPG7は、 そのまま窓から地面に落ちる。 「よくやったわキョン! ナイスショット! 学校に帰ったらみくるちゃんを――違う違う! ビールをおごってあげるわ!」 「未成年者に酒を勧めるなよ!」 こんなやりとりをしていると、つい俺の頬がゆるんでしまうのがわかる。 なんだかんだでハルヒの威勢の良い声が今はとても気持ちよく感じているからだ。 「また来た!」 今度は路地から2人の敵がそこら中に向けてAKを乱射し始める。それに対して、ハルヒは持っていたM14を構え、 2発発射。当然のようにシェルエット野郎2人に命中して飛散させる。大した奴だ。 「このくらいできないと指揮官は務まらないわ! 当然よ当然!」 得意げに笑うハルヒ。昨日ほど落ち込んではいないようだな。 ちなみに、ハルヒが持っているのは他の生徒が持っているM16A2ではなく、 どこからか引っ張り出してきたM14――しかも狙撃用にカスタマイズされたものだとか。 昨日北山公園に行ったときはM16A2だったが、途中でMINIMIに持ち替えて乱射していたらしい。 ところがこれがさっぱり敵に命中しないものだから、今では一発一発確実に命中させる方に転向している。 「下手な鉄砲も数撃ては当たる!なんて言うけどさ、あれって絶対に嘘よね。 昨日、あれだけ撃ちまくっても全然命中しなかったし。きっと弾を売っている商人が流したデマよ。 そういう連中にとってはいっぱい撃ってくれた方がどんどん売れて大もうけって寸法よ、きっと!」 根本的にお前の使い方が間違っているんだよ。とまあ指摘してやりたかったが、胸の内にしまう。 何でかというと、今度は前線基地前の民家の屋根上に10人くらいの敵が出現して、 こっちに銃撃を始めやがったからだ。 こっちも負けずに一斉射撃で反撃を開始するが、上からと下からでは差があるのは当然だ。 敵を一人やるまでにこっちは二人は負傷するという不利な状態だ。 「だったら、さらに上から撃てばいいのよ! 古泉くん! やっちゃってちょうだい!」 『了解しました』 ハルヒ指令の指示通り、古泉ヘリのミニガン掃射が始まる。もう敵どころか民家の屋根ごと吹き飛ばしている威力を見ると、 頼もしいような恐ろしいような。 「敵車両がまた来たよ、キョン! 三両も!」 「しつけぇな!」 東側を見ていた国木田から声の声に、俺は思わず出る愚痴を吐き捨てながら敵の迎撃に向かう。 先頭に一両で背後に2両が併走していた。当然どれも12.7mm機関銃付きだ。 とにかく、先頭の車両の連中をつぶそうと銃を構えるが、突然、背後の車両に乗っていた数人が RPG7を手に立ち上がった。前の車両はおとりかよ! やられた! だが、向こうが発射する前に敵の先頭車両が吹っ飛ぶ。さらに、後続の一両も同じように爆発で破壊され、 残った一両だけはRPG7を発射することなく、路地に逃げ込んでいった。 「へへん、やったわ! 作戦通りね!」 ハルヒは笑顔を浮かべながら、周りの生徒たちに向けて親指を立てる。 どうやらこっちも迎撃のために携行型のロケット弾あたりをあらかじめ用意していたらしい。 放たれたのは俺たちの隣の建物らしいので、具体的はわからないが。 やがて、さっき逃げ出した最後の一両も古泉ヘリがとどめを刺す。この時点で敵からの攻撃は完全に収まっていた。 「……収まったのか?」 「さあ、どうかな……?」 さっきから出ては引っ込んでの繰り返しだからな、俺とハルヒもすっかり疑心暗鬼になっちまっている。 そのまま、1時間が過ぎたが結局なにも起きず。その間、神経張りつめっぱなしで銃を構えていたもんだから、 いい加減疲れたのかハルヒが座り込んで、 「ちょっと一休みするわ。あ、キョンはそのまま見張ってなさい」 鬼軍曹かお前は。そのうち、後ろから撃たれるぞ。 「あとで交代してあげるから。もうちょっとがんばりなさい。SOS団の一員でしょ」 「……SOS団であるかどうかは全く関係ないんだが」 結局、しぶしぶと俺は前方の民家に向けて警戒を続ける。しかし、敵は何でいきなり攻撃をやめたんだ? このまま、延々と攻撃を続ければ俺たちもどんどん消耗していくだけなんだが。 「バッカバカバカね。こんなのゲリラ戦の基本じゃん。いつ攻撃を受けるかわからないあたしたちは こうやってぴりぴりしていなきゃならないけど、向こうは数人こっちを見張っているだけで、 他はのんびり休息中ってわけよ。きっとホーチミンもそう教えていたに違いないわ」 わかるようなわからんような……そもそも常識はずれな連中だから、休息も必要ないだろうしな。 『涼宮さん、僕の方はどうしましょうか?』 無線で語りかけてきたのは古泉だ。そういや、さっきから延々と前線基地上空を飛んだままだったな。 ハルヒはしばらく考えてから、 「とりあえず、学校に戻って。ただし、すぐに飛べるようにしておいてね」 『了解しました』 そう言ってUH-1が学校に帰還する。一瞬、帰ったとたんに攻撃されるんじゃないかと緊張が走ったが、 敵は動こうとはしなかった。 ◇◇◇◇ それから数時間状況は動かず、俺たちは神経を張りつめながらひたすら警戒するだけの時間が続いた。 もう正午をすぎようとしている。そういや、このあり得ない世界に放り込まれてからようやく1日半か。 一年ぐらいいるようなくらいの疲労感だが。 この一応平穏な時間の間に、前線基地の南側に北高からトラック輸送部隊が来て弾薬やら食料を置いていった。 死者や負傷者と入れ替える予備兵も到着する。 ハルヒはせっせと指示を出していたが、戦死した生徒や重傷者を乗せて帰って行くトラックを見送ると、 おもむろにメモを取り出してなにやら書き込み始めた。 「……なにやってんだ?」 「…………」 俺の問いかけにも反応せずハルヒは一目散にボールペンを走らせ続ける。それも普段にないような真剣な目つきでだ。 ちらっとのぞいた限りでは名前が延々と列挙されていた。これってまさか…… 「……ふう」 ハルヒは全部書き終えたのか、パタムとメモ帳を閉じた。 そこでようやくハルヒをのぞき込むように見ていた俺に気がついたのか、 「なっなによ! なんか用!?」 あからさまにびびったような声で抗議する。気がついたら俺とハルヒの顔の距離が30センチ未満だった。 俺もあわてて、ハルヒとの距離を取ると、 「いや……なにやってんだと聞いていたんだが」 さっきと同じことを聞く。するとハルヒはメモ帳をぴらぴらさせながら、 「死亡した生徒と負傷した生徒の名前を書いていたのよ。指揮官たるものそう言うのは逐一把握しておくもんでしょ? って、なによその意外そうな目つきは!」 「何にも言ってねえだろうが」 変な疑いをかけるなよ。俺はただ単にハルヒがしっかりしているんだなと感心しただけであってだな―― と、ハルヒは俺の抗議を無視して目をそらすと、 「でも、そんな精神論だけの話じゃないわ。昨日と併せて、死者はすでに70人を越えているし、 負傷者も50人に達したのよ。しかも、ほとんど戦えるような状態じゃない生徒ばかり。 やっと1日半だけど、すでに生徒の半数近くが戦闘不能になっているじゃ、この先どうすればいいのか……」 そうあからさまに不安げな表情を浮かべた。ハルヒの言うとおり、確かに人員不足は否めない。 前線基地には常に50~80人は詰めているので、相対的に北高の守備隊や長門の砲撃隊、 さらに朝比奈さんの輸送や医療のチームがどんどん削減されている状態だ。 後方支援を削って前線を守っているんだからほとんど共食いに等しい。 大体、敵とこっちじゃ条件があまりにも偏りすぎているってんだ。相手は戦車や爆撃機を使ってこないとはいえ、 シェルエット野郎は無限に出現してくるし、武装トラックもどこからともなく現れやがる。 あまりにフェアじゃねえ。一方的すぎる。もてあそばれている気分だ。 だがハルヒは首を振りながら、 「敵があたしたちの要望なんて聞いてくれる訳がないじゃない。あたしがうまくやっていないだけの話よ。 もっときちんとみんなを守っていれば……」 そう肩を落とすハルヒ。俺は何とか励ます言葉を考えるが、どうしてもいい励ましが思いつかない。 こんな俺に果てしなく憂鬱だ。 「あーやめやめ! お腹がすいているからこんな暗いことばっかり考えるんだわ。ご飯食べてくる!」 ハルヒは2・3回頭を振ってから、先ほど届いたばかりの缶詰の山をあさりだした。 まあ、確かに腹が減ってはなんとやらだしな。俺も食うか。 と、このタイミングで古泉からの連絡だ。 「何の用だ?」 『やあどうも。そちらはどうですか?』 「今飯を食おうとして、寸止めを食らったせいで大変不機嫌な気分だ」 古泉は無線機越しに苦笑しながら、 『それは失礼しました。なら後にしましょうか?』 俺はちらりと缶詰にがっつくハルヒを確認してから、 「いや、せっかくだから今の内に話せることは話しておこうか。またいつ敵が襲ってくるかわからんしな」 俺は飯を食うのはあきらめてハルヒの見えない位置に移動する。 「とりあえず、散々お前の援護には助けられたからな、礼を言っておくぞ」 『これはどうも。あなたから感謝の言葉をいただけるとは光栄ですね。今までの奉仕が実ったというものです』 気色悪い表現を使うな。 『しかし、ミニガンの威力はすごいですね。辺り一面を吹き飛ばす威力にはやっているこっちがぞっとしますよ。 しかし、実際に撃っている人は気分爽快らしく、フゥハハハーハァーとか笑いながらやっていますが』 「……その勢いで俺たちまで撃たないように注意しておいてくれ」 そんな笑い方をされると動くものすべてに撃ちまくるようになっちまいそうだ。 古泉は俺の言葉をジョークと受け取ったのか、苦笑しながら、 『それはさておき、そちらの状況はどうですか?』 「めっきり敵の攻撃が収まっているな。ただ大方その辺りの民家には敵が潜んでいそうだ。 こっちから仕掛けたりしたら返り討ちに遭うだろうよ。癪だが、今はここで粘るしかない」 『賢明な判断だと思います。今は現状維持に努めた方が良いでしょう。何せ敵はこっちが消耗するのを狙っているようですから』 ――ハルヒが缶詰を生徒たちに配っているのが目に入る―― 「学校の方はどうなんだ? いつ攻撃を仕掛けられてもおかしくない状況だが」 『北高への攻撃はまだないと思いますよ。少なくともあなたたち――涼宮さんが学校への籠城を指示するまではですが』 「そうか? 俺たちの消耗を狙うなら、学校を攻撃して武器弾薬を使えなくした方が効果があると思うんだが」 『お忘れですか? これを仕組んだ者は涼宮さんにできるだけの苦痛を与えることです。 通常の軍事作戦なら当然学校制圧を目指すでしょう。しかし、今学校を制圧されれば僕たちは降伏する以外の道はありません。 それでは意味がないんです。涼宮さんをほどほどに絶望させつつも、世界を改変するまでには絶望させない。 じりじりと追いつめていっているんです』 「……俺たちをこんなところに放り込んだ奴は相当陰険な野郎って事だな」 俺はいらつくながら頭をかく。 『全く同感です。しかし、学校制圧は当然この後のイベントとして考えているでしょうね。 ただ、今は前線基地で涼宮さんの精神の消耗に務めるはずです』 「イベントなんて言葉使うなよ。まるでこの戦争がただの催しみたいに聞こえるじゃねえか」 『戦争? あなたはこれが戦争だと思っているんですか?』 俺は珍しく語気を詰め読める古泉に少し驚いた。そのまま続ける。 『これは戦争なんて言える代物ではありません。戦争にはそれなりの理由があります。 民族とか資源とか国益とか、ある時は意地やプライドなどもあります。 しかし、それを実行するには大変な労力が必要な上、多くの人々の支持が必要です。 でも、今我々がいる世界はどれも当てはまりません。戦う理由もないというのに、 無理矢理知識とやる気を頭の中にねじ込まれ戦わされている。さらにその目的が一人の少女に精神的苦痛を与えるためだけ。 こんなものは戦争なんて呼べません。頭のおかしい者が仕組んだゲームにすぎないと思っています。 だからこそ、僕は腹立たしい。こんなばかげたゲームのためにこれだけ多くの人命を費やしているんですから。 成り行きで転校してきたとはいえ、9組にはそれなりに親しい人もいました。 ですが、その大半がすでに戦死しているんです。堪えるなんて言うものではありません』 口調だけ聞いても古泉のテンションがあがっていることがはっきりとわかった。あの全く表情を変えない古泉が。 一体、無線の向こう側ではどんな顔をしているんだろう。ふと、そんな考えが頭を過ぎる。 しばらく、古泉は黙りこくってしまうが、やがて大きくため息をつき、 『……すみません。こんな事を言うつもりではありませんでした。僕自身も相当追いつめられているようですね。 それが敵の狙いだというのに』 「構わねえよ。むしろ本音が聞けてほっとしているくらいだ。言葉は違ったが俺もお前と同じ考えさ」 古泉がこれだけ感情をあらわにするなんてことは今までに一度もなかった。 古泉の言うとおり、敵の狙いはそこにあるのだろう。だからこそ、たまにはガス抜きも必要だ。 俺は話題を変えて、 「で、長門からは何か進展があったとかいう話はないのか?」 『長門さんは喜緑さんとずっと学校の教室でこもりっきりです。僕らには想像を絶するような作業を行っているのかと』 そうか。長門はまだ突破口を見つけられていない。ならしばらくはこれが続くと見て良いだろう。 「そろそろ戻るぞ。あまり長話をしているとハルヒにどやされるからな」 『わかりました。では涼宮さんをよろしくお願いします。彼女も相当堪えているはずですから』 そう言い残して無線を閉じた。 ◇◇◇◇ 「何やってたのよ。せっかくのご飯がなくなっちゃうわよ」 まだがつがつ缶詰の肉を食いあさっているハルヒ。なんつー食欲だ。どんな胃袋しているんだ? 「食べられるときに食べておかないとね。ほらキョンも食べなさい。食欲がないなんて許さないわよ。 無理にでもカロリーを蓄えておかないと後が厳しくなるんだからね」 ハルヒから放り投げられた缶詰を受け取ると、俺もそれを食い始めた。 冷たくて大した味もしないのにやたらと旨く感じる。 ハルヒは細目で俺の方をにらみつけ、 「で、誰と連絡していたのよ。有希? みくるちゃん?」 「古泉だよ。というか何であいつを選択肢からはずすんだ」 「へー古泉くんとね……へーえー」 なんだその疑惑の目つきは。言っておくが俺から連絡した訳じゃない。それに俺はれっきとしたノーマルだぞ。 朝比奈さんを見てほんわか気分になれるほどにな。 「はいはい、わかったわよ。早く食べちゃいなさい」 しかめっ面なハルヒだが、そんな事で言われるとお袋を思い出すからやめてくれ。 で、そのまましばらくむしゃむしゃと食べていた俺たちだが、ふとハルヒが手を止める。 「ん……どうした?」 俺の問いかけにも答えずにハルヒはじっと怖い目つきで―― 次の瞬間、横に置いてあったM14をつかむと、前線基地前方の民家に向かって構える。 俺もあわててそれに続いてM16を取ったときにはすでにハルヒは発砲していた。 ようやく銃を構え終えたときには、シェルエット野郎がはじけ、手にしていたRPG7が地面に落ちる光景だった。 何で気がついたんだ? 「野生のカンってヤツよ! でも違うわ! あれじゃない! あと、古泉くんにヘリで援護してもらうように言って!」 訳のわからんことをわめくハルヒ。だが、同時に前方の民家の窓という窓から敵が飛び出して、 AKの乱射をはじめた。戦闘再開だ! まったく! 俺はひたすら窓めがけて撃ちまくったが、ハルヒはじっと構えたまま発砲しない。一体何を待っているんだ? と思ったら、民家の木製の壁を突き破って一台の武装トラックが出現した。さらにハルヒが待ってましたと M14で狙撃するが…… 「ミスっちゃった!」 素っ頓狂な声を上げる。ハルヒの放った銃弾は、フロントガラスをぶち破り武装トラックに乗っていた運転手と 荷台に載っていたAKをもったシェルエット野郎一人をつぶしたが、肝心の12.7mm機関銃の射手は撃ち漏らしたからだ。 壁からド派手に登場したトラックは今までとちょっと違った。器用にトラックの荷台の両脇に 鉄板のようなものが張り巡らせサイドからの銃撃を受けないようにされていた。 前後から攻撃するしかないが、後ろは論外、なら前面ならってそりゃ12,7mmの銃口を向けられているって事だろうが! ハルヒのミスったっていうのは、12.7mm射手を一番最初に仕留められなかったことを言っているのだろう。 ものすごい勢いで乱射され、こっちは建物の陰に隠れて身動きすらとれねえ。 こんなんじゃ、そのうち誰かに当たるぞ……と思った瞬間、移動しようとしていた生徒の脇腹を直撃――いや貫通した。 肉がさけるいやな音とともに、生徒の背後に血しぶきがぶちまけられる。くそ、この調子じゃ古泉が来る前に死者多数だ。 ハルヒは必死に地面にはいつくばりながら、撃たれた生徒に近づき、 「暴れないで! 傷口が広がるからじっとしてなさい! 衛生兵! 早く来て!」 何が起きたのかわからない状態になっている負傷した生徒を必死になだめる。 ちくしょう、このままじゃただ的にされるだけじゃねえか! ハルヒはやっていた衛生兵に負傷者を任せると俺の元に戻ってきて、 「このままじゃらちがあかないわ! とにかく、向こうの弾に当たらないように、牽制するの! あの車両のヤツの弾切れが狙い時だわ! あたしがきっちりと仕留めるから援護して!」 「わかった! てか、さっき使ったロケット弾みたいな奴はないのかよ! あれで吹っ飛ばした方が早いだろ! ないのか!?」 「さっきので打ち止めよ! みくるちゃんたちに探させているけどまだ見つからないって!」 「肝心なときに役にたたねえ4次元ポケット学校だな。わかった援護する!」 俺はハルヒとの意識あわせを終えると、近くにいた国木田を呼びつけ、 「あの野郎が弾切れを起こさせるように、牽制するぞ! 援護してくれ!」 「了解! 任せて!」 俺と国木田は交互に物陰から出ては、武装トラックに向けて発砲した。最初は狙い撃ってやろうかと思ったが、 目があったとたんに射殺されるシーンが脳裏に過ぎったので、とにかく何でも良いから乱射しまくった。 数分間この撃ち合いが続いたが、ようやく向こうが弾切れだ。給弾をはじめようとしたタイミングで、 ハルヒが身を乗り出して狙撃しようとしたが―― 「うへっ!?」 ハルヒの素っ頓狂な声が上がる。俺もあげた。当然だ。突然あり得ない動きで荷台左側の鉄板がぐるっと回って、 12.7mmの射手を覆い隠したからだ。おいレフリー! 今のはどう見ても反則だろ! 「あたしが出て仕留める!」 俺が考えるよりも早くハルヒがM14を片手に飛び出した。おいバカやめろハルヒ!と口に出す暇もない。 ハルヒは鉄板がなくなった左側から回り込み、数発発射して12.7mmの射手を仕留めた。 早く戻ってこい――げ! 「ハルヒ! 東側からRPGだ! 伏せろ!」 いつのまにやら発射されていたRPGがハルヒめがけて飛んできた。ハルヒは飛び込むように地面に伏せる。 その瞬間、ハルヒのすぐ手前の地面にRPGが直撃。衝撃でハルヒの身体が俺たちの方に転がってきた。 俺は全身から血の気が引く音をはっきりと聞いてしまう。 「ハルヒっ!」 もう頭よりも身体が先に動いた、銃弾が飛び交っているのにも構わず、俺は路上に飛び出して 倒れて動かないハルヒを物陰に引きずり込もうとする。だが、敵もそれを阻止すべく、路地の陰、民家の屋根や窓から 俺たちに向け銃撃を開始する。しかし、ようやく到着した古泉のUH-1がミニガンの掃射を開始し、 何とか被弾せずにハルヒを物陰に引きずり込んだ。 「おおい! ハルヒ! しっかりしろよ! 目を開けろ!」 俺は自分でもわかるほどに泣き出しそうな声でハルヒに呼びかける。すると、ハルヒは突然ぱっちりと目を開けて、 「あーびっくりした!」 驚きの声を上げた。俺は安堵のあまり全身の力が抜け、 「よかった……無事なんだな。心配させやがって!」 「なに!? さっきから頭の中で除夜の鐘がぐわんぐわん鳴り響いて全然聞こえないんだけど! もっとはっきり大声で言いなさいよ! 聞こえないじゃない!」 至近距離で爆音を浴びたせいだろうか、どうやら耳がおかしくなっているらしい。 俺はまた銃を握ると、 「そんだけ元気があれば十分だって言ったんだよ!」 「やっと聞こえてきた――ってあったりまえでしょ!」 怒鳴り返すハルヒを見る限り、全然無事だなこりゃ。 俺たちは国木田のいた位置まで戻り、また敵に向けて応戦を再開した。しかし、俺たちのちまちました援護なんかより、 古泉のミニガンの方が手っ取り早い。あっという間に民家を破壊しつくして敵を黙らせる。 「よっし、何とか押さえられそうね! 古泉くん様々だわ! これが終わったらSOS団団長代理にまで昇格させようっと」 こんな時までSOS団のことを考えてられるとは大した精神力だ。いや、ひょっとしたら今のハルヒにとって この非常識世界で唯一現実とつなぎあわせを求めているのがSOS団なのかもしれないが。 だが、そんな俺たちの安心感も、前線基地とされるサンハイツの最西端の建物が吹っ飛ばされたと同時に消滅する。 かつてない大爆発で、大地震が起こったんじゃないかと思うほどに地面と建物を揺るがした。 「な、なによなになに!?」 驚きのあまり路上に飛び出しそうになるハルヒを俺が止める。しかし、何だってんだ今の爆発は! 今までの比じゃねえぞ! 古泉のUH-1が状況を確認しに西側に移動する。しばらくして無線連絡が入り、 『まずいですね。原因はわかりませんが西側が木っ端みじんです。かなりの負傷者も出ています。早く救出を』 手短に古泉からの報告を終える。俺はハルヒの元に駆け寄り、 「ハルヒ。とりあえず、俺が西側に行って防御に入る。何人か借りていくぞ、いいな?」 「…………」 ハルヒはしばらく口をへの字にしたまま黙って俺をにらみつけていたが、やがてそっぽを向いて、 「……わ、わかったわよ。でも無理はしないでよ! いいわね!」 ハルヒの許可が下りたので、周辺にいた生徒9名+国木田を集める。 「よし、今から西側に移動するぞ。前線基地の裏側を通ってな」 「了解」 国木田と他生徒の同意の下、俺たちは西側へ移動を開始した。 ◇◇◇◇ 『気をつけてください。北側に広がる空き地には敵が多数潜んでいるようです』 「よし、すまんが空き地の敵を掃討してくれ。それが終わり次第、負傷者の救出に入る」 『わかりました。任せてください』 俺たちは今前線基地の西側にいる。ただし、正面――北側には敵方数潜んでいるので、 前線基地の裏である南側で待機中だ。 最西端の建物は木っ端みじんといっても良いほどに崩れていた。辺りにはここを守っていた生徒の破片――そうだ、 人間の破片ががれきに混じって散らばっている。あまりの凄惨さに吐き気を催しそうになった。 ドルルルルルと耳につく発射音なのか回転音なのかわからない騒音が辺りに響きはじめる。 古泉のミニガンが炸裂をはじめたようだ。 「よし、俺たちも表側に出るぞ」 俺の合図とともに、粉砕されたがれきを乗り越えつつ建物の残骸に身を潜める。 ハルヒのいた前線基地の中間付近とは違い、西側の正面には民家はなく空き地が広がっている。 起伏がそこそこあるために、その陰に敵が潜んでいるようだが、現在古泉がそれを掃討中だ。 起伏に隠れても真上からではいくら隠れても無駄だからな。 俺が残骸の陰から外をのぞこうとしたとき――目に入ったのは、空き地と民家の壁にぴたりと隠れるようにいた 武装トラックだ! しかも、こっちが来るのを待ちかまえていたように12.7mm機関銃を向けていやがる! とっさに頭を引いたとたん、ドドドと12.7mmの乱射が始まった。民家の残骸をさらに細かく粉砕していく。 さらに間髪入れずにRPG7が発射され、残っていた壁の一部が吹っ飛ばされた。 幸いそこには味方の生徒はいなかったが。 「手榴弾だ! 国木田頼む!」 「任せて!」 国木田が思いっきり腕を振って武装トラックに手榴弾を投げつけ、俺もそれに合わせる。 距離が遠いため武装トラックまでは届かなかったが、近距離での爆発にとまどったのか、 一瞬12.7mmの銃口があさっての方に向いた。 「撃て撃て!」 俺の指示で、一斉射撃による反撃開始だ。M16やら5.56mm機関銃MINIMIが一斉に火を噴き、 武装トラックを穴だらけにする。しかし、肝心の12.7mmの射手には当たらずまた銃口がこっちに向けられようとした瞬間、 トラックごと粉砕された。古泉ヘリのミニガンが炸裂したのだ。 『すみません。死角になっていたので気がつきませんでした』 「頼むぜ。お前だけが頼りなんだからな」 古泉に無線で釘を刺すと、俺たちはそこら中に転がっている負傷者の救助を始めた。 しかし、あれだけミニガンで掃射したってのに、まだ空き地からちょろちょろと銃撃してくる奴がいやがるおかげで、 容易には行かない。 「国木田! あとそこの4人! 物陰に隠れながら、俺たちを援護しろ! 敵が見えたら遠慮なく撃ち返せ! 他は負傷者を救助するんだ!」 俺たち救助チームは路上にかけだして、負傷者の回収を開始する。しかし、人間としての原型をとどめている方が 少ない状態だ。しかし、それでも虫の息ながらまだ生存している生徒も何人かいた。 俺はそいつらを担ぎ上げて、民家の残骸の陰に引き込む。 そんな調子で息のある生徒を5人ほど救出できた――いや、まだ戦場のど真ん中だから救出という表現はおかしいか。 古泉ヘリがまたミニガンで掃射を開始した。見ると、空き地の向こう側から数十人の敵が接近しつつある。 それを迎え撃っているようだが…… 「キョンあれ見て!」 国木田が俺の肩を叩き、近くの民家の屋根の上を指さす。そこには3人のシェルエット野郎が UH-1に向けてRPGを構えるとしていた。あれでヘリを攻撃する気か!? しかも古泉のヘリはそいつらにちょうど背を向けるような状態になっていて気がついてねえ! 俺は奴らに向けて銃撃を加えるように指示する一方、古泉に無線をつなぐ。 「おい古泉! 東側の民家の上でお前を狙っている奴がいるぞ!」 『む。それはまずいですね……』 こっちから必死に撃ちまくって阻止しようとするものの、距離が遠いために当たりそうにもない。 もう弾頭を空に向けて今にも発射しそうだ。どうする? 古泉に逃げろと言うか? いや、もう間に合わない…… 「古泉! そこから90度左に旋回してミニガンで吹っ飛ばせ!」 『……そうしましょうか!』 古泉はくるっと機体を90度旋回させる。ちょうどミニガンの目の前に敵があわれる形になり、 一気に掃射を開始する。即座にシェルエット野郎3人を吹っ飛ばしたが、時すでに遅し。 三発のRPGが古泉ヘリに向かって発射された――が、奇跡的にといっても良いだろう。 かろうじて機体を外れてどこかに飛んでいった。 「ぎりぎりかよ……あれを連発されるとまずいんじゃないか?」 『ええ、これでは掃射を行うにも高度をあげる必要がありますね。当然、命中率も下がるので、 無駄弾が増えそうですよ』 古泉はそう言い終えると、UH-1の高度をぐっと上げていった。それで勢いづいたのか、 敵がまた空き地にどんどん入り込んで来やがった。 しばらく、空き地側の敵と俺たちで銃撃戦が続いたが、突然背後でまた大爆発の轟音が鳴り響く。 って、何で背後から聞こえてるんだ!? まさか、また北高へのロケット弾とかでの直接攻撃か!? 俺は無線で学校に連絡を取ろうとするが、向こうはパニックに出もなっているのか、誰も応答しようとしない。 迫る敵に反撃しつつ必死に呼びかけを続けたが、やがて無線機から聞き覚えのある声が流れてきた。 『聞こえる?』 「長門か!? 何かあったのか!?」 『……学校と前線基地をつないでいた橋が爆破された。現在、そっちとは断絶状態』 俺は長門からの報告に絶句する。北高と前線基地の間には一本の小さな川が流れている。 歩いてわたるにはどうって事ないものだが、荷物を持って移動するには一苦労するだろうし、 溝のような構造になっているため、トラックでわたるのは不可能だ。それを唯一つないでいた橋が爆破された。つまり―― 『こちらから物資などの補給を送るのはほぼ無理になった。このままではそちらの弾薬が尽きるのを待つだけ』 「…………」 途方に暮れてしまう。他にルートはないのか? 光陽園学院前に川を渡る橋はあるが、 敵もわざわざ橋を爆破したぐらいだ。そっちからも通れないように何らかの手を打っているだろう。 どうすりゃいい? どうすりゃ―― 『何とかしたい』 そう言い放ったのは長門だ。いつもなら、頼もしい言葉に聞こえるが今の状況じゃ…… 『何とかする。約束する』 長門はそれだけ言い残すと無線を終了させた。ちっ、何だかわからんが、今は長門に期待するしかないのか!? また空き地側からの銃撃が活発になる。俺も反撃に加わって近づく敵を片っ端から銃撃した。 だが、無駄弾は撃てない。何しろ今手持ちの弾がなくなれば、もう何もできなくなってしまうからだ。 敵が増えてきたタイミングで、古泉ヘリからの掃射が始まる。空から学校に戻れるUH-1ならいくら撃っても 補給に戻れるからな。ガンガン撃ち込んでくれ! 古泉ヘリの掃射の間、俺は周りの生徒に発砲を控えるように指示する。とにかく節約だ。 さっきまで遠慮なく撃ちまくっていたのが懐かしいぜ。 この間に国木田が近づいてきて、 「キョン。このままだといずれはやられるのが保証済みだよ」 「わかっているが……だからとって負傷者を見捨てるわけにもいかねえだろ」 俺はちらりと振り返ると、あの大爆発で虫の息にされた生徒たちの方を見る。 呼吸を続けているところを見るとまだまだ生きながらえるはずだ。何としても助けてやりたい。 だがどうする? どうすればいい? 「とにかく徹底抗戦。後は何かが起きるのを待つ。それで良いんじゃない?」 いつものマイペース口調で国木田が言う。全くのんきな奴だ。だが、それしかないか。 ◇◇◇◇ 最西端の防御に入ってから1時間。俺たちはえんえんと北側の空き地から接近してくる敵を撃ち続けた。 その間、何も起きていない。長門からの連絡もない。たまに古泉ヘリが掃射で支援してくれるだけだ。 この間に生徒二人が射殺されていた。残りは9人。だんだん厳しくなりつつある。 「くそ、いつまでこれを続けてりゃいいだよ……」 「指揮官が弱音を吐くと周りに伝染するよ」 国木田はこんな状況でも自分のペースを崩さずに敵めがけて撃ち続けている。 だが、時間が過ぎたことによって一つの問題も発生していた。 『ちょっと悪い知らせです』 古泉から深刻な報告が来やがった。大体想像はつくが。 『ミニガンの残弾が10%を切りました。もう少ししたら学校に補給に戻らなければなりません』 今の状態では古泉の支援がなくなると言うことは、しゃれにならん。 俺は周りの生徒たちに残弾の報告をさせると、マガジン一つ分だけとか、今装填している分だけなんて返ってきているほどだ。 ヘリが去ったとたんに敵は一斉攻撃を仕掛けてくるだろうし、俺たちにそれを迎撃するだけの弾もない。 しかし、このまま上空を飛ばしているだけでは全く意味がないのだ。 『選択肢は二つあります。このまま支援を続けて、なくなり次第学校に補給に戻る。 これはタイミング次第では最悪な展開になるかもしれません。 逆に今の内に敵を徹底的にたたいてから補給に行き、すぐにこっちに戻るという方法もありますが……』 「補給に戻ったとして、何分で俺たちの支援に復帰できる?」 俺の問いかけに、古泉はしばし思案して、 『20分……いや、15分で戻ってみせます』 15分か。なら耐えられるかもしれないな。その後は、またそのときに考えればいい。 「よし、古泉。今あるだけの弾を敵にぶち込んでくれ。終わり次第、即刻補給して戻ってこい。 その間は何とか耐えてみせるさ」 『わかりました。健闘を祈ります』 古泉のUH-1が高度をやや下げ一気にミニガン掃射を開始する。俺たちは近づいてくる敵以外には 発砲を控え終わるのをじっと待った。 やがてミニガンを撃ち尽くした古泉ヘリは、学校側へ方向転換し、 『終わりです。すぐ戻りますので、その間はお願いします』 そう言い残して学校に戻った。俺は生徒全員を見回し、 「よし、古泉が戻るまで何としてでもここを守りきるぞ! 残弾には気をつけろよ!」 檄を飛ばしてまた――その瞬間、俺の右手にいた二人の生徒が崩れ落ちる。射殺されたのだ。 ヘリがいなくなったとたんに二人!? しかも、衛生兵と通信兵だ。よりによって……! 同時にこちら側に浴びせられる銃弾の量が突然増大した。民家の残骸の陰から空き地の様子をうかがうと、 まるでさっきのヘリからの掃射がなかったかのようにシェルエット野郎がこちらに向けて移動してきていた。 一番近い敵はすでに前線基地建物前の路上のすぐそばまで来ている。もうここから10メートルもない距離だ。 いつの間にここまで来やがったんだ!? 俺は必死に敵を追い払おうと撃ちまくったが、すぐに弾切れを起こしてしまう。 あわてて懐から新しいマガジンを取り出し銃に装填する――これが俺の最後の命綱だ。 かなり至近距離での撃ち合いになったおかげで、こっちは物陰から敵の様子をうかがうことすら 難しくなってきた。 ふっと、俺の目線に中を浮く黒い物体が目に入る。柄のついたそれは、俺から少し離れた残骸の陰で 敵と撃ち合っていた4人の生徒たちの足下に落ちた――手榴弾だ! バァンと破裂音が響き、彼らが吹っ飛ぶ。ぼろぞうきんのようにされた彼らは力なくよろけ、地面に倒れ込んだ。 俺は唖然として腕時計で時刻を確認する。まだ古泉が補給に戻ってきてから1分半しか立っていない。 そのわずかな時間で6人がやられた。残りは俺と国木田と後一人――残りの生徒も今銃弾が頭に命中してやられちまった。 ついに俺と国木田の二人だけだ。 国木田はすぐに手榴弾で倒れた生徒たちを救助しようと――と思ったら、息も絶え絶えの彼らを放って、 マガジンやら銃を回収し始めた。俺は反発心と納得が両方とも頭に埋まり、複雑な気分になる。 「ひどいことをしているように見えるかもしれないけど、今は生き残る方が重要だよ。 そのためには使えるものは徹底的に使わないとね」 いつもより少し真剣なまなざしを向ける国木田。そうだな、今俺たちが死んだら、負傷者生徒たちも死ぬことになるんだ。 善意だとか道徳心だとかは乗り切った後で考えればいい。 俺は国木田からマガジンを受け取り銃撃戦を続行する。国木田の的確な射撃のおかげか、 敵が路上を越えることだけは阻止続けた。 ふと、もう1時間は過ぎたんじゃないかと腕時計で時刻を確認すると、まだ古泉が戻ってから8分しか経っていない。 こんな時ばっかり時間が遅くなりやがって! 国木田がマガジンを交換しつつ叫ぶ。 「キョン! これで最後だよ!」 これが国木田の最期の言葉だった。ガガガガとAKが炸裂する音が響いたとたん国木田の身体が崩れ落ちる。 弾丸が顔面に命中したのだ。 「国木田っ!くそっ!」 俺は声をかけるものの、額を撃ち抜かれた国木田はぴくりとも動かない。完全に即死状態だった。 路上を越えようとしていたシェルエット野郎2人を撃ち殺し、すでに息絶えている通信兵から無線を取り出す。 「……ハルヒ聞こえるか?」 『どうしたの!? 何かあった!?』 ――また接近してきた敵を撃ち殺し―― 「国木田がやられた。もう残っているのは俺一人だ」 『……うそ』 唖然とした声を上げるハルヒ。 「何とかできるところまでは粘るつもりだ。もうすぐ古泉が戻ってくるだろうしな。それまではなんとか――」 『キョン!』 せっぱ詰まった声を上げるハルヒ。 『いい!? これは絶対命令よ。拒否なんて許さない。今すぐに川を渡って学校に戻りなさい。 そこをこれ以上守る必要なんてないわ。あの川なら徒歩でも何とか越えられる! だから戻りなさい! そこで出た犠牲の責任は全部あたしが背負うから! だから逃げて! お願い!』 「できるわけねえだろうが、そんなことっ!」 思わず怒鳴りつけてしまう。俺は額を抑えて――また敵がやってきたので撃ち返して追い払う―― 「ここには俺が行くって言ったんだ。それで仲間がついてきてくれた。なのに、その仲間がみんな死んでいるってのに、 俺だけおめおめと逃げ出すなんて絶対に拒否するぞ! 絶対にここから動かないからな!」 『キョン……キョン……!』 ハルヒは悲痛な声で俺のあだ名を呼び続けるだけ。見れば、数十人にふくれあがったシェルエット野郎が次々に こちらに突撃を始めていた。 「ハルヒ。俺からの頼みだ、聞いてくれ」 俺は息を吸い込んでありったけの思いを込めて言う。 「死ぬな。絶対にだ!」 そして、ハルヒからの返答も聞かずに俺は無線機を投げ捨て、路上を越えて突撃してきたシェルエット野郎数人に向けて 乱射する。不意を食らったのか、あっさりと命中していつものようにはじけ飛んだ。だが、続々と後続が接近してくる。 俺はとにかく無我夢中に撃ち続けた。弾が尽きればマガジンを交換し、それもなくなれば別の生徒が持っていた M16に持ち代える。路上を越えてくる敵は、昨日の北山公園の時と同じく突撃バカみたいにつっこんでくるだけだった。 残骸の破片が銃弾を受けて飛び散り、俺の頬を傷つけたがもはや痛みすら感じている暇もなかった。 乱戦の中、自分自身をほめてやりたくなるぐらいに粘っているが、弾は減る一方だ。 ついに今握っているM16が最後となる。これを撃ち尽くせば、俺も終わりだ。手を挙げて降伏しても、 助けてくれそうな敵でもないしな。 また一発また一発と撃ち、敵を打ち倒す。それがついに最後の一発となった瞬間―― 「うっ!?」 最後の一発は発射されなかった。数え間違えていたらしい。敵を真正面にしながら残弾ゼロ。 もう敵はAKをこちらに向けて構えている…… ……終わりか。また学校の部室でハルヒやSOS団の連中と会えれば良いんだが…… 呆然と放心状態に陥りかけていた俺を現実に引き戻したのは、突然目の前に現れたトラックだ。 北高と前線基地に物資を輸送していた大型のトラック。だが――橋が爆破されたって言うのに、 どうしてここにいる? 荷台には武装した生徒たちが乗り込み、空き地から突撃してきていたシェルエット野郎に向けて一斉射撃を始めていた。 同時に上空に古泉ヘリが舞い戻りミニガンの掃射を開始する。 「……助かった……のか?」 「ええもちろん」 呆然とつぶやく俺に言葉を返したのは、トラックの運転席に座っていた喜緑さんだった。昨日見たときとは違い、 セーラー服ではなく、迷彩服に身を包んでいる。 「遅れてすみません。なかなか手こずりました」 「えと……あの、どうやってここに?」 死んだと思ったが、突然現世に復帰したもんだからどうも違和感が抜けない俺。言葉遣いもたどたどしくなっているのが、 自分でもよくわかった。 喜緑さんはいつものにこやかな笑顔を浮かべつつ、 「橋は修復しました。長門さんの努力のたまものです」 「長門が……ってまさか情報ナントカができるようになったのか!?」 俺は歓喜の声を上げそうになるが、残念ながら喜緑さんは否定するように首を振り、 「それはまだです。3つほどの突破口を見つけましたが、そのうち一つを犠牲にして、 橋の修復を行いました。貴重な手段なので、安易に使うのはどうかと思いましたけど、 長門さんにとってあなたを救出できるようにすることが最優先だったようですね」 そうにこやかに喜緑さん。長門……本当に何とかしちまいやがった。すごすぎるよ。 「さて、ここは学校からの予備人員で守ります。今の内に遺体と負傷者をトラックに乗せてください。 それとあなたも。総指揮官からの絶対命令のようですので」 さっきからトラック据え付けの無線機からキーキー聞こえてくるのはハルヒの声か。 どうやら俺に学校に帰れ!と叫んでいるらしい。 ふと、トラックの荷台に載っていた生徒たちの射撃が収まる。空き地方面を見てみると、 敵が後退していくのが見えた。なんだ? どうしてこのタイミングで逃げ出す? 「おそらく予期せぬ情報改変に敵が混乱しているのでしょう」 にこやかに喜緑さんが解説してくれる。何はともあれ、今がチャンスだろう。とっとと負傷者を回収しなけりゃな。 ◇◇◇◇ 「本当に戻るんですか? 命令違反ですが」 負傷者と遺体を載せたトラックが北高へ向けて戻っていく。喜緑さんは最後にそう言っていたが、 俺はハルヒの方に戻ると言って、学校への帰還を拒否した。なあに、命令違反なら今までも散々やっているいまさらだ。 大体、ハルヒも長門も古泉もたぶん朝比奈さんもみんな必死なのに、俺だけ学校に引っ込んでいられるわけもない。 で、ハルヒのところまで戻ると予想通りの反応を見せてくれた。 「あーんーたーはー! 一体どれだけ命令違反を犯せば気が済むわけ!? 逃げろって言っているのに拒否するわ、 学校の守備に行けって言ったらこっちに戻ってくるし! 総大将の命令をなんだと思っているのよ!」 とまあものすごい剣幕で胸ぐらをつかみあげられた。一体どんな腕力をしているんだこいつは。 俺はあたふたと説明しようとするが、胸ぐらをつかみあげられてまともに口がきけるわけもなく、 ただ口をぱくぱくされるぐらいしかできない。ハルヒはひたすらガミガミ怒鳴っていたが、 やがて言いたいことも尽きたのか、俺から手を離し、 「……とにかく! 今後はあたしの命令に従うこと良いわね! 仕方ないから、ここにいてもいいけどさ。 これからはあたしのサポートをしてもらうわよ。どんなときでもあたしのそばにいなさい! 絶対絶対命令だからね!」 そう言ってぷんぷんしながら去っていった――ってどこに行くんだあいつは。 しかし、よくもまあ乗り切ったものだと自分で自分に感心する。普段の俺なら絶対に精神的におかしくなっていただろうが、 これも仕組んだ奴が頭をいじくったせいということにしておこう。だが。 俺はふとハルヒの背中を見る。長門と古泉の予測ではハルヒは何の人格調整も受けていないと言っていた。 なら、あいつは普段の精神状態のままこの地獄のような世界で指揮官なんて言う役割を演じている。 その両肩にかかっている重圧や責任感はどれだけのものなのだろうか。 そして、ハルヒは一体どんな思いでそれを背負っているのだろう。俺はハルヒの背中を見ながらそんなことを思った。 ~~その6へ~~